ページ2
部屋いっぱいに木の実を並べておけば、チャオは勝手に食べてくれるだろう。
お腹を空かせたチャオが、悲しそうな目で俺を見ているが、直接木の実をあげるわけにはいかないんだ。
遂に空腹に耐えかねてチャオが泣き出してしまった。
すぐ近くに木の実がたくさんあるってのに、どうして自分で食べてくれないんだ。
やはり、生まれたばかりのチャオに自分で木の実を見つけろってのは無理があるのか?
仕方がないから、俺は足でチャオを木の実の方へ押してやった。
傍から見れば、チャオを蹴ったように見えるだろうし、チャオもそう感じたに違いない。
だが、おかげで、チャオは木の実に気づいて、自分から食べてくれた。
こんなことを何回か繰り返しているうちに、チャオはお腹が減って泣く前に自分で木の実を拾って食べるようになった。
これで、俺も多少は辛い思いをしなくてすむようになったわけだ。
だが、念には念を入れて、時々、チャオを蹴るような真似をしなければならなかった。
こんな嫌な思いをするのはいつ以来だろうか?
しかし、それもあと数週間の辛抱だ。
こいつが、ヒーローチャオになりさえすれば、俺には明るい未来が拓けてくるんだ。
もちろん、その時には、こいつに詫びなければならないな。
今までの分を、取り戻すくらい、十分に可愛がってやろう。
もうしばらくの辛抱だ。
チャオ裁判も、あと一週間となって、俺とチャオは拘置所に入った。
進化するまでの最後の一時をここで過ごすわけだ。
もう無理やりチャオをいじめる必要はなかった。
うっすらと白くなったチャオが、俺の未来を象徴しているようだ。
裁判官や検察官たちが見守る中で、チャオはマユに包まれていった。
そして、マユがゆっくりと消えていき、中から白い色をしたチャオが現れた。
ヒーローチャオだ。
俺のチャオは、ヒーローチャオに進化したんだ。
こいつを見た時の検察官の顔は見物だったぜ。
あるはずのない物を見た時の人間の表情ってのは、こうなるって見本みたいだったぜ。
さて、これで、俺も無罪放免ってわけだよな。
しかし、俺の優越感も裁判官の一言で消え去ってしまった。
「被告人は、そのチャオを抱き上げるように」
ちょっと待て。
ちょっと待ってくれよ。
そんなことをしたら、どうなるか・・・。
「何を言ってるんだ?俺のチャオは、ヒーローチャオに進化した。それで十分じゃないのか?」
そんな抗弁も役には立たなかった。
俺は、この命令に従うしかなかった。
俺は、恐る恐るヒーローチャオに近づき、祈るような気持ちで抱き上げた。
じたばた。
じたばた。
ヒーローチャオは、俺の腕の中で、そんな形容しかしようのない動きをしていた。
頼む。
ちょっとだけ辛抱してくれよ。
あと5分、いや3分だけでいいから、おとなしくしてくれ。
じゃないと、俺の未来が、いや、俺たちの未来が閉ざされてしまう。
都合のいい未来かもしれないが、俺はおまえとの未来に希望を持ってるんだ。
頼む・・・。
続く