~宇宙の神秘編・戦いの果てに(後編)~ ページ2
「…」
その光景を赤いチャオ以外の全員が白い目で見ていた。
ようやっと降りてきたその謎のチャオは、赤いマントに赤マスク。ボディカラーも赤と、運動会の時白組に所属していたらさぞかし気まずそうな格好をしていた。
多数の白い視線などなんのその。突如現れた全身垢だらけ、ちがう。全身赤だらけのチャオは喋り始めた。
「悪を倒せと天が呼ぶ!善も倒せと大地が呼ぶ!我らの母なる星、地球を守護すべく!今ココに立ち上がって見せようぞ!宇宙を股にかけるナイスガイ、紅の流星『レッドスター』ココに見参!」
「レッドさんレッドさん」
「何だブル…何だキサマは!私はレッドではない、レッドスターだ!」
「同じようなものではないですか。どうせ偽るのならもっと凝ってくださいよ。なんですかレッドスターって。盗塁王でも目指す気ですか?」
「私は野球には興味が無い!それに偽るなどとは無礼千万!君が私のことをどこの誰と勘違いしているのかは知らんが、ありもいしない言いがかりをつけるのはやめてくれたまえ!」
ひょいっ。
レッドスターの赤いマスクをひょいっと掴み上げたのは、背後からトコトコと近づいてきたグリーン隊員だった。
「やっぱりレッドじゃねぇか」
「なッ、キサマ!背後から不意打ちとは汚い手を!それでも君はチャオレンジャーの隊員かね!?」
「もう自白してるし」
「ぬぬぅ、まぁいい!とにかく今は地球の侵略を防ぐ事が先決!みんな、私が来たからにはもう大丈夫だ!安心したまえ!」
両手を広げ、その場で回転しながらカラテ会場のチャオ達に呼びかけるレッドスター、もといレッド。
それに応じるものは、一人もいない。
レッドは落胆する様子など微塵も出さず、ずかずかとチャノキとチャクラバのもとへ歩み寄る。
「やぁカオス諸君、初めましてナイスチューミーチュー!私がチャオガーデン国立王立市立人工生命体研究所の所長、レッドである!後に歴史のテストで私の名前を書けという問題ができる予定だ!よく覚えておきたまえ!」
「…」
「…」
チャノキもチャクラバも、抱いた感想は同じだった。コイツ誰。
「見ればずいぶんと侵略者相手に苦戦しておるようだな。だが!わたしが来たからにはもう安心!タイタニックに乗った気でいたまえ!」
「すみません申し訳ございません謝ります」
恐らく今までの人生で一度も謝罪という行為をしたことが無いであろうレッドの代わりに、ブルーがチャノキたちに向かって頭を下げた。
「なぁ…コイツ誰?」
「ずいぶん変わった方ですね」
レッドに自己紹介を要求したとしても恐らく正確な解答が帰ってこないと判断した二人は、多分「コイツ」となんらかの関係があるのだろうと思われるブルーに訪ねた。
「すみません。この方は、多少というか多々感覚が正常から外れていまして。常識的判断を脳が下せないのだと思われます。この方に何か話しかけられたとしても全て聞き流して頂きたいと助言させていただきます。とにかくマスチャツさんと宇宙人さんの対決に水をさすような事をしてしまい、申し訳ありません。何故僕が謝罪せねばならないのか、疑問であり不本意ではありますが謝罪の弁を述べさせていただきます」
「まてまてまて!黙って聞いておれば、君は私を侮辱するために生きておるのかね?」
「侮辱されるべくことを貴方がをしているのですから、仕方がないでしょう」
「私の行為は常に人を幸福の道へ導き、それによって救われた人が多々おるのだ!君も私の世界に触れてみそ!必ず幸せになれる!今なら入会費一千万リングだ!」
「どんな宗教ですかそれは。貴方の世界に引きずり込まれた人が可哀想でなりません。一生暗く深い闇の底で暮らす事になるのですね」
「人をブラックホールのように言うんじゃない!」
「では蟻地獄ですか?」
「ブルー君、君と話しているうちに何か引っかかるものがあると思い始めていたのだが、いま解けた。その言い草、ピンク君にそっくりだぞ」
「前々回、前回に引き続きピンクさんはお休みですから。代わりに僕がピンクさんの役目を担っているのではないでしょうか」
「盛り上がっている所を邪魔してしまい悪いのだが」
放って置けば無限に続く言葉のキャッチボール、いや言葉の千本ノックを取りやめさせたのは、畳の上から話しかけてきた、マスチャツだった。
「君達が一体何者なのかはひとまず置いておいてだな。許可さえ出れば試合を再開させていただきたいのだが」
「君達」ということは、自分もレッドと同類、怪しい変質者として見られてしまったのか。
そのことに少しショックを受けつつ、ブルーが手を顔の前で交差させながら、
「許可も何も試合を中断させてしまったのはコチラです、本当に申し訳ありません。今すぐ観客席に戻りますので」
「イカーン!それではせっかく私が『コレ』を持ってきた意味が無いではないかぁ!」