~宇宙の神秘編・戦いの果てに(中編)~ ページ3
風をまとった両者が、互いに二歩前へ出る。
宇宙人は相変わらず仁王立ちで試合開始の合図を待ち、マスチャツは左手足をやや後ろに下げ、銃身を低くして構える。
「では、始めるチャオ!準備はいいチャオか!い、いくチャオ!あっちむいてー…ホイチャオ!」
そういった瞬間、宇宙人とマスチャツが恐ろしい速さで激突した。
「ひぃぃぃぃ!」
オモチャオはあわてて後ろに下がり、物陰へ隠れてしまった。チャオカラテの長い歴史で、審判が逃げ出したのは、後にも先にもコレっきりである。
お互い敵に向かい宇宙人は左腕を、マスチャツは右腕を振り上げながら突進し、激しく衝突した二人はその反動で後ろに飛ばされる。だがすぐにまた地面を蹴って敵に向かい突進、衝突する。
その突進の速さが尋常じゃない。宇宙人とマスチャツがぶつかる瞬間、会場が大きく揺れる。それだけ強い力が生じているのだ。
チャノキもチャクラバもすんなり撃破した宇宙人と、マスチャツは互角に戦っている。他の追従を許さない、そのポテンシャルの高さ。コレがマスチャツの本気。誰もがそう思った。
しばらく後ろに下がっては突進、後ろに下がっては突進を繰り返していた二人だったが、試合開始から約30秒後。少し間合いを置いて両者の動きが止まった。
「…おい、墨汁」
「私のことかね?」
「キサマ、まだ本気を出していないだろう」
「失礼な、私は精一杯戦っているつもりだが?」
「いや、キサマはまだ本当の実力を出していない。まだ本気ではない。我の、挌闘家としての勘がそう言っている」
いつから挌闘家になったのか。その場にいる全員がそう思った。まぁそのことはどうでもいい。
マスチャツは、まだ本気ではないというのか。まだたった30秒だが、あんなマスチャツは、いやあんな戦いをするチャオは見たことない。チャノキもチャクラバも。
未だかつてマスチャツの本気など、誰も引き出した事は無い。今の戦いぶりをてっきり、マスチャつが披露した初めての『本気』だと思ったが、違うのか。
「…そうだな。君相手では、手加減する必要など全くなさそうだな。よかろう、リクエストに応じて全力を出して相手をしてやろう」
その言葉は、会場内のチャオたちを驚愕させた。まだ、本気じゃなかったのか。
しかし、マスチャツ本気で戦う姿などもう二度と拝めないかもしれない。あのマスチャツの真の実力がいよいよベールを脱ぐと思うと、会場内のボルテージは一気に加熱した。
その加熱した会場の観客席には、当然国民的ヒーロー、チャオレンジャーの面々もいるわけで。
「凄いですね、マスチャツさんの本気ですよ。一体どんな戦いをするんでしょう。…あれ、レッドさんは?姿が見当たりませんね」」
「さぁな、トイレにでも行ったんじゃねーの?それにしても惜しかったなぁ。ビデオカメラもってくりゃよかった…。今からでも間に合うかな?」
「無理だと思いますよグリーンさん。まぁ、目にしっかり焼き付けておきましょう」
「そうだな!よし、こう目をグぐっと見開いて…」
「普通に見るのが一番だと思いますよ」
「Zzz・・・」
主役をカオスたちに取られ、完全に影薄~な隊員達。レッドの不穏な動きに期待するとしましょう。 次回へ続く。恐らく。