~宇宙の神秘編・戦いの果てに(中編)~ ページ2
その頃、我らがアイドル、相変わらず不法占拠を続けるチャオレンジャー隊員は。
「チャノキさんまで倒されちゃいましたねぇ。万が一マスチャツさんまで倒されてしまったら、ホントに侵略作戦を開始されてしまうかもしれません。…リーダー、いいんですか?こんな所でのんきに傍観していて」
「だからさっきから言っているであろう!いいか、ストレスがそこらじゅうでテイクアウトし放題のこの現代社会で、映画鑑賞というのは貴重なストレス発散の場であるわけだ!この娯楽をより楽しむ方法として、映画鑑賞しながらポップコーンを食すというのは非常に合理的かつ効率的かつ正攻法かつローリスクハイリターンな…何、意味がわからないだと?要するに、全国の映画館でポップコーンのお代わり自由を直ちに実施するべきだといっておるんだ!」
「なんであいつらはあんな格闘ゲームみたいな動きができるんだ…。いいな~、俺もやりたい…」
「Zzz・・・」
「…ふぅ、ココは空手会場であって映画館ではないのですがね。まぁ、ノースタントアクション映画を見に来たのと大差ないですけど。…あ、お姉さん。コーラもう一ついただけますか?」
もはや脇役以下の存在になっていた。
そして、ついに宇宙人VSマスチャツの、地球侵略をかけた最終決戦が始まる。
畳の上には、異様な雰囲気が漂っていた。
そこに対峙するは、出身星不明の怪しい宇宙人と。ガーデン内最強の戦士マスチャツ。
宇宙人のほうは、洗い立ての洗濯物みたいな真っ白な体。マスチャツの方は鈍い光沢の中にも、重厚な存在感のある漆黒に包まれた体。
この両極端な、オセロみたいな二人が畳の上で互いを睨み付けている。
「…はっきり言って」
洗剤使用疑惑のもたれる宇宙人が、おもむろに口を開いた。
「はっきり言って、先の黄金納豆とソーダアイスは我の期待を大きく裏切った。あんなに弱いとは思わなかった」
マスチャツの後ろ、畳の外で聞いていたチャノキはいまにも宇宙人に掴みかかる勢いで歩み寄ろうとして、チャクラバをそれを必死に制止する。
「…キサマは強いのか?」
異星人の問いに、マスチャツは表情を変えず答えた。
「さぁな。それはぜひ君自身で確認してくれ。後で私にも感想を聞かせてくれたまえ」
「…期待しているぞ」
どぉぉぉぉん…!
その直後、地面が大きく揺れた。
「な、なんだ!?」
「なんでしょう…」
「な、何事チャオ!?」
「な、なんじゃもんじゃ!?」
その場にいる全員がうろたえた。
当然、揺れはチャオレンジャー達にも伝わった。
「なんだったんでしょう、今の揺れは?」
「ふむ、きっと誰かが私の噂話でもしているのだろう。いや、人気者は辛いなはっはっは!」
「噂話で地震が起こってたまるか」
「Zzz・・・」
たった一度だが、非常に大きな振動だった。
ナマズばりの地震予知能力でもない限り、冷静を保っているのは難しいだろう。
だが、宇宙人とマスチャツだけはこの振動の中微動だにせず、慌てふためく事も全く無かった。
なぜなら、この二人こそが今の地震を起こした張本人であるからだ。
「…チャ、チャノキさん!アレを見てください!」
「あん?…おわっ!?」
チャクラバが指差す先にチャノキが見たもの。それは畳の上で繰り広げられている、異様な光景だった。
ゴゴゴゴゴゴ…!
風が、地響きとも思える低い唸り声を上げながら、宇宙人と、マスチャツの周りを渦巻いている。
その風にあおられ、木の葉や小石が二人の周りでくるくる回る。
観客席にいるチャオレンジャー隊員からも、その様子ははっきり見て取れた。
「あの二人はこれから何をするおつもりなのでしょうか?こんな会場の一つや二つあっという間に破壊されてしまいそうです。逃げる準備でもしておきますか?」
「バカモン!それでは我らがココへ来た意味が無いではないか!」
「…って言うか、俺達ココへ何しに来たんだっけ?」
「Zzz・・・」
「(あ、あわわわ…。なんだか凄い事になっちゃったチャオ…)」
この二人を一番近くで見ているのが、オモチャオである。
今時分の目の前で起きている光景が夢なのか現実なのか、ほっぺをつねって確認しようとして、断念した。ほっぺ硬くてつねれません。
「おい、試合開始はまだか」
「ひぃぃぃぃ!ごめんなさいチャオ~!!」
宇宙人の一言で、オモチャオは頭を抱えてうずくまってしまった。そしてぶるぶる震えだした。
「ご、ごめんなさいチャオ!もうおねしょしないチャオ!それから飼い主がいない間に勝手にカオスドライブを飲むなんてことしないチャオ!だから許してチャオ~!」
「オモチャオ殿。誰も怒ってなどいませぬ。さぁ、立って。私達の戦いを見届け、公正な判断を下してください」
「ま、マスチャツ…。ありがとうチャオ…」
ようやく泣き止んだオモチャオは、すっくと立ち上がり、その表情をきりりと引き締まる。
「よ、よし!試合を始めるチャオ!両者、前へ!」