~宇宙の神秘編・戦いの果てに(前編)~ ページ3
「我の名は明かす事はできない。我らがこの星の支配者となったときに明かしてやる」
「…は?」
チャノキがチンプンカンプンだったのも無理はない。
審判員のオモチャオはチャノキに、どうやらこの宇宙人はこの星の侵略をたくらんでいるらしい事を伝えた。
何故オモチャオが知っているかというと、宇宙人が一試合終えるたびに「また一歩我らの野望が…」とか、「侵略計画は順調…」とかぶつぶつ呟いていたのを、逐一記憶していたからである。
「…」
チャノキは今の話を信じようか信じまいか、決めかねていた。
たしかに目の前にいるこの生き物は何か特殊な感じがする。チャオではない。
本当に宇宙人かもしれないし…。でもいきなりそんなこと言われても…。
あれこれ悩んでいたチャノキだが、はっと自称宇宙人に目をやると、そこではまた異変が起こっていた。
宇宙人の周りで、風が渦巻いていた。枯れ葉や小石が宇宙人の周りで踊っている。
そして、うっすらと宇宙人を青い光が取り囲み始めた。カオスたちは、上手く言葉では言い表せない、何か強い力を感じていた。『気』と形容するのがふさわしいかもしれない。
「彼がチャオなのか、宇宙人なのか……。私には判断しかねますが」
チャクラバは言った。
「今まで戦った中で、一番強い相手だという事には間違いなさそうです」
一方、観客席の一部を不法占拠している我らがチャレンジャーのメンバーは。
「カラテにチャンピオンベルトなんてあるんでしょうか?それにしても凄いですねぇ、漫画の世界にいるみたいです。そろそろ本気で侵略された時の事を考えておく必要があるかもしれませんね、…聞いてます?」
「むむ!コーラとポップコーンが切れてしまった!売り子さーん!お代わりプリーズ!なに!?お代わりのサービスは無いのかココは!?どういうことだ!責任者を呼べ責任者を!」
「くぁ~!いいなぁ~!俺もあんな事やりてぇー!なんつーの?こう俺の周りが光り輝いてさぁ、手からこう、エネルギーを放出して敵をドカーンと…!」
「Zzz・・・」
「…ふぅ、すでに収拾がつきませんね…。あ、お姉さん。僕にもコーラ一つお願いします」
完全に当初の目的を見失っていた。
「それでは改めて、両者前へ!」
畳の上で、宇宙人とチャクラバが対峙する。互いが互いを鋭い眼光でにらみつける。
「ルール説明チャオ!基本的には攻撃方法に制限は無し、この畳の外に出たり、ダメージを受けて戦えなくなった時点で負けチャオ!それと宇宙人のほうは、なんかよくわからないバリヤーとか、超能力とか使っちゃダメチャオ!使ったと判断した時点で反則負けにするチャオ!」
「わかった、従う」
「それじゃ準備はいいチャオか!?始めるチャオ!レディ……ゴーチャオ!」
両者の間に立ったオモチャオが高らかに試合開始を宣言する。と同時に、身を後ろに引いて試合の邪魔にならない場所に移動する。
そして、前を遮る物が無くなった二人はいきなり激しく激突した。
宇宙人が左手を、チャクラバが右手を思い切り振り回し、二つの拳は空中で火花を散らした。
その衝撃は凄まじく、チャクラバは反動で体が後ろに流された。
「むッ……」
がしかし、宇宙人は反動で体が流される事無く、すぐさま二次攻撃へ転じてきた。
バランスを崩しながらも、チャクラバは飛んできた右足をしゃがんでかわす。
「(速いッ……)」
チャクラバはさらに自分に向かってくる宇宙人の猛ラッシュを、両手両足全てを駆使して防御する。
チャクラバが超級階級である理由。無論、潜在能力の高いカオス系のチャオであるという事も理由のうちのひとつだが、一番大きな理由は、彼には他のチャオには真似できない、絶対的な守備技術があるということだ。
ありとあらゆる攻撃を受け流し、反撃のチャンスを確実に物にする。それがチャクラバの戦い方である。
今回も自らが攻め手に入ることは決してせず、相手の攻撃をかわし、防御しながら反撃のチャンスをうかがう。自分のたたかい方を実践しているように見えるだろう。
しかし、傍らで戦況を見つめるチャノキには、いつもと様子が違う事がわかっていた。
「チャクラバが……押されている」
チャクラバは攻撃しないのではなく。攻撃できないのであった。
宇宙人の攻撃を防御しているうちに、チャクラバは考えた。
先ほどからパンチ、キックと絶え間なく攻撃を加えてくる。恐らくいつものように相手の隙をうかがっていたのでは勝てないだろう。
コイツは『疲れ』というものを知らないのかもしれない。普通コレだけ激しい動きをしていれば必ず疲れてきて、隙が生じるはずなのだが…。
待っているだけでは勝てないだろう。自分から攻撃せねば。しかし宇宙人は、チャクラバに攻撃に転ずる時間を許さない。
「くッ!」
チャクラバはそれまで頑なに閉じていた両手を開き、強引に攻め手に回ろうとする。その隙を、宇宙人は見逃さなかった。