(前編)ページ2
「た、大変だ!」
そう叫びながらワープ装置――ステーションスクエアの室内ガーデンと、ミスティックルーインガーデンを繋ぐ出入り自由の小型ワープ装置だ――から出てきたのは、一匹のオレンジ色のチャオだった。
「どうしたのだ何があったのだ何が起こったのだ!」
笑顔全開でオレンジチャオに詰め寄ったのは、当然のコトながらレッドであった。
オレンジチャオは一瞬たじろいだが、すぐに答えた。
「ステーションスクエアガーデンに、刃物を持った男が入ってきたんだ!」
「なんだと!こうしちゃおれん!チャオレンジャー出動だ!」
レッドは寝ているイエローを右手で引きずり、ワープ装置の上に乗った数秒後、その姿は消えた。
「あ、ちょっと…。もう行ってしまいました」
ヘッドフォンをはずしながらブルーが言った。
ピンクは読んでいた本をパタンと閉じて、
「仕方ありませんわ、私たちも行きましょう。オレンジの貴方は、警察に連絡を」
「は、はいっ」
自らもワープ装置に入り、そして消えた。
「グリーンさん、起きてください。出番ですよ」
「…あ?」
半覚醒のグリーンを引きずり、ブルーもまたワープ装置へと入っていった。
…
ステーションスクエア室内ガーデンは、大混乱状態だった。
子供チャオの悲鳴が響き渡る中で、一人大柄な人間の男がウロウロ歩き回っていた。目と口の部分に穴の開いた黒い覆面で腰部を覆い、右手にはナイフをギラつかせていた。
コイツが混乱の元凶に違いない。一足先に着いたレッドはズビシッ、と指差す。
「そこの覆面レスラー!何が目的で白昼堂々不法侵入を敢行したかは知らんが、我らチャオレンジャーが成敗してくれる!」
高らかに叫んだレッドだったが、覆面男は完全無視。キョロキョロと何かを探すように室内ガーデンをうろついている。
無視されたレッドは、
「私をスルーするとはいい度胸だ!貴様その覆面を剥いで、ついでに身ぐるみ全部剥いでハンバーガーショップ前の人形とともに道頓堀に放り込んでやる!」
などと喚いていたが、すぐにやってきたブルー達に取り押さえられる。
「あまり挑発的な言動は慎んでください。相手は刃物を持っているのですよ?」
「何をする!取り押さえるべきは私ではなくあの覆面レスラーのほうだろう!」
「それはわかっていますが、とにかく落ち着いてください」
早くも仲間割れを始めたチャオレンジャーに泣き叫んでいた子供チャオからも白い目が向けられ始めていたそのとき、覆面男が突如走り始めた。
その向かう先には、噴水がある。だが男の狙いは噴水ではなく、そのそばで体を震わせ怯えているチャオ――キラキラと虹色に輝く体を持つ、一匹の子供チャオにあった。
「ひぃっ」
虹色チャオは恐怖で足がすくんでしまい、その場を動くことが出来なかった。覆面男が目前に迫ってくる。
虹色チャオは両手顔を覆い隠し、体を丸める。そしてその体が浮いたとき、自分は覆面男に捕まってしまったのだと思った。――しかし、そうではなかった。
「大丈夫か?」
「え?あ……」
目を開けると、自分を抱いていたのは覆面男ではなく、緑色のチャオだと言うことがわかった。
緑色のチャオ――我らがチャオレンジャー隊員、グリーン隊員が覆面男よりもわずかに早く虹色チャオにたどり着き、その勢いのまま虹色チャオを抱きかかえ覆面男から離れたのだった。
よくやったグリーン君、と言いながら、
「なるほど、貴様の狙いはわかった!」
ブルーの拘束を振りほどいたレッドが叫んだ。
「貴様、そのレインボー君を誘拐せんとココに乗り込んできたのだな!虹色チャオは世界に数匹しかいない!そこのレインボー君も大変に高い希少価値を持っている!売り飛ばせば金にもなろう!だがそんなコトは……」
我らチャオレンジャーが断固として阻止させてもらう、と言おうとしたのだが、それは叶わなかった。
レッドの叫び声が、新たな叫び声によってかき消されてしまったからだ。