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第六話

カキン。

吹く風爽やかな秋晴れの下。
快音を響かせ弾き返された白球は高々と放物線を描き、バックスクリーンへ直撃。いわゆるひとつのホームランである。

打ったバッターは、真っ赤なボディカラーのオモチャオであった。
ダイヤモンドを一周し終えた赤いオモチャオは、ベンチで出迎えた仲間とハイタッチを交わす。
その赤いオモチャオを出迎えた仲間と言うのが、青色、緑色、桃色、黄色のボディカラーのオモチャオと、数体の通常カラーのオモチャオだった。

そして、三塁側ベンチで喜ぶ彼らをピッチャーマウンドから睨みつけているのが――我らがチャオレンジャーのリーダー、レッドである。
ロージンバッグを手でポンポンと上下させるその表情に、不気味な笑みが浮かび上がる。レッドは叫んだ。

「そうこなくては面白くない!あまり簡単に勝ってしまってはつまらんからな!今の一点は私からのプレゼントだ、ありがたく受け取りたまえ!」

ちゃちなホワイトボードに描かれたスコアボードに数字が刻まれる。
回は二回の表、『オモレンジャーズ』が一点を先制。『チャオレンジャーズ』は一点のビハインドとなった。


――なぜ、チャオレンジャーが野球をしているのか。カラフルなオモチャオ達の正体とは。オモレンジャーとはいったい何なのか。
その謎は、時を一週間前に遡るコトによって解き明かされる。が、先に言っておこう。事の発端は、いわずもがな、レッドの思いつきであったと。



「暇だ」
レッドが呟く。
「暇ですね」
ブルーが呟く。
「暇だな」
グリーンが呟く。
「暇ですわ」
ピンクが呟く。
「Zzz・・・」
イエローが寝てる。

「えぇい!何かこの暇を吹き飛ばすビックリサプライズなイベントは無いのか!このままでは暇死してしまうぞ!」
「今日だけでその台詞も54回目ですよ。たまには街にでも出てみたらどうですか?」
「もう行ってきた!道路前で待っててもカーチェイスの一つも起きないし、カジノ内で待っててもカジノ強盗の一つも起きなかった!全く世の中にはスリルが足りない!そう思うだろう皆の衆!」
「俺は今の状態が一番好ましいぞ」
「わたくしもですわ」
「Zzz・・・」

危険から身を守るための最善の方法は、人影に隠れるコトだと思っている彼ら。

彼らこそ悪人から世界を守るために結成されたスーパーチャオの集団(特殊な能力は全くないが)
自称チビッコ戦隊チャオレンジャー!人呼んで歩く不協和音である!

彼らが以前生活していたガーデンから、ミスティックルーインガーデンに引越して(と書いて『追い出されて』と読む)はや5ヶ月。
越してきて早々一騒ぎがあったものの(第五話参照)基本的にはココでの暮らしは平穏そのものだった。

基本的に自由である。

寝るもよし遊ぶもよし、レースに興じるもよし街に遊びに行くもよし。前のガーデンではドタバタが絶えなかったが、ココ最近は実に自由気ままに暮らしてきたチャオレンジャーであった。
チャオレンジャーは存分に、『チャオ』を謳歌していた。


んがしかし、まったく持ってその平穏を良しとしない、この5ヶ月イライラしっぱなしの男が一人いた。

「えぇいもう我慢ならん!皆の衆、エッグキャリアへ乗り込むぞ!アレをチャオガーデンとして使用し続けるなど勿体無い!アレを修復、強化して我々の手で世界征服を成し遂げようぞ!」
「曲がりなりにも正義の味方を自称する集団が暇つぶしに世界征服ですか。とうにわかりきっていたことではありますが、今更ながらにリーダーには正義の味方を名乗る資格が無いコトを再確認しましたよ」
「わかっていないなブルー君!いいか、私は正義なのだよ。正義が世界を征服すれば、世界は正義になるだろう。正義とは即ち正しいというコトなのだ!つまり正義が世界を征服すれば世界は正しくなる!つまり私が世界を征服すれば世界は正しくなる!つまり私が正しいのだ!」
「素晴らしいですね。完全無欠パーフェクトなまでの独裁思想です」

そう言ってブルーはヘッドフォンを装着して音楽を聞きはじめる。
ピンクは水辺で優雅に読書を始め、グリーンとイエローは口をポカンと開けたマヌケ面で二人仲良く夢世界へ。
ポカポカ陽気が降り注ぐミスティックルーインガーデンで、レッド以外の隊員は静かで穏やかな時間を満喫し、レッドは手持ち無沙汰にガーデン内をウロウロしているのだった。


その静穏をぶち壊したのは、突然の来訪者だった。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第194号
ページ番号
2 / 12
この作品について
タイトル
チビッコ戦隊チャオレンジャー!~VSおねしょ戦隊オモレンジャー!編~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第194号
最終掲載
週刊チャオ第195号
連載期間
約8日