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「ま、まさか、そんな…」
ぺたり、とその場にへたり込んでしまったのはピンク隊員だった。第一発見者のグリーン隊員もしりもち状態。その場を離れようと、しりもちのまま手足を使って後退してくる。
意を決して、無言で『それ』に近づいていったのは、チャクロンだった。
「ち、チャクロンさん。だ、だ大丈夫ですか?」
心配そうに声をかけるブルーの声も震えていた。チャオレンジャー大パニック。
「…まちがいない、コイツは…」
『それ』を覗き込んでいたチャクロンは立ち上がり、言った。
「コイツは本物の、人間の白骨死体だ」
…
「ど、どどどどうしましょう」
「だ、だだだ誰かに知ら、知らせ」
「と、ととととにかくこ、この場を離れ」
ブルーもグリーンもピンクも、手足をバタバタさせて『あら、今日はお客様が来るのに料理の材料が無いわ。今からでは間に合わないし、どうしましょう』状態。
「えーい!落ち着かんか皆の衆!」
パニック状態の三人の動きをピタリと止めたのは、我らがリーダー、レッドの一声だった。
「今我々がすべきことはひとつ!一刻も早くこの森を脱出し、警察へこの事態を知らせることだ!違うかね!?」
今までまったく見たことの無い真剣な眼差しで隊員一人一人を見据えるレッド。
こんなマトモ(マジメでなく)なリーダー見たこと無い。
「…コイツの言うとおりだ。とにかく、この森を出よう。道は俺が知っている。…立てるか?」
へたり込んだままのピンクに手を差し伸べるチャクロン。
「…申し訳ないのですが…こ、腰が抜けて…」
「…ほら」
ピンクの前で、背中を向けてしゃがみこむチャクロン。背負ってくれるらしい。
ありがとうございます、とピンクは礼を言ってチャクロンの背中にその身を預ける。
「僕は今初めてリーダーをリーダーだと思いましたよ。あんなリーダーでも頼りになることがあるのですね。…さて、僕らも行きましょう。グリーンさん、立てますか?」
へたり込んだままのグリーンに手を差し伸べるブルー。
「…悪い…」
「…」
「…俺も…腰が抜けて…」
…
――翌朝。
―ステーションスクエア―
『深夜の森、白骨死体が眠っていた』
右から左からひっきりなしに車が行き交う道路の脇の片隅で、そんな見出しの新聞が売られていた。
昨日、深夜のうちに一面が当初予定されていたものからこのニュースに差し替えられたのは、当然チャオレンジャー達からの通報があったからである。
あれからチャクロンはピンクを背負い、ブルーはグリーンを背負い、レッドはイエローを引きずって何とか森を脱出。ミスティックルーインガーデンに設置してあるワープ装置を経由してステーションスクエアにたどり着き、交番に転がり込んだ。
そして、今ブルーが手にしている新聞の見出しに至ったのである。
「昨日はマジで驚いたぜ…」
げっそりとやつれた顔でブルーの持つ新聞を横からの覗くグリーン。
あの後、チャクロンはまたシティエスケープに戻っていった。今度お礼を言わなければ。と、ピンクは今後の予定を考える。
「しかし…」
しかし。ブルーにはひとつ解せないことがあった。そしてそれは、ほかの隊員も妙だと感じていた。
「ピロシさんはどこへいったんでしょう?」
森を抜けた後、白骨死体のことを真っ先にピロシに伝えようとした。
ピロシなら携帯電話などすぐに警察に連絡できる手段を持っているかもしれないと期待をかけたのだが、辺りを探してもピロシは見つからなかった。
電車もすでに走っておらず、結局ガーデン経由でステーションスクエアにやってきたのである。
「自分で頼んどいて、無責任なヤツだぜ」
怒ったグリーンがその場を離れようとしたとき、それを足止めしたのは、グリーンと同じくブルーの脇から新聞を覗き込んでいたレッドの薄気味悪い笑い声だった。
「ふっふっふ…」
ぞくっ、とグリーンが寒気を覚えたのと、話し始めるのは同時だった。
「皆の衆よ。君達の疑問にお答えすることができるかも知れんぞ。貸してみたまえ」
そう言ってブルーの新聞をひょいと取り上げる。
他の隊員の頭上にはハテナマークがふわふわ浮かぶ。イエロー隊員のポヨは変化なし。
「とても興味深い記事だ。今から読んでやろう、よく聞いておきたまえ」
何がなんだかわからない3人は、とりあえずレッドの言うことに従う。
「『今回発見された白骨化した死体は死後五十年以上は経っており、周りに散乱していたヘルメットなどの装備から、森に探検として入りそのまま遭難したものと思われる』そうだ」
「はぁ…」
まだ話が読めない3人。レッドは続ける。
「面白いのはココからだ。『なお、五十年以上前の資料を調べる内に、あの森に入ったきり行方不明になったという人物の記録を発見、その人物の名前は――』」
「……」