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「さーて、絶叫マシン顔負けのスリルを味わったところで、いざ!暗く深い暗黒の森の調査を開始しようではないか!」
「…まぁ…軽症ですんだからよしとはしますが……」
レッドとイエローを除く隊員はみな息絶え絶え。幸いというか奇跡というか、誰一人として大怪我をしたものはいなかった。かすり傷程度ならいくらかあるが。
死を覚悟するほどの出来事を「スリル」の一言で片付けられるやつなど、不死の体を持つモノか阿呆しかいないわけで。我らがリーダーがどちらに分類されるかは、まぁ、ねぇ。
「どうしたどうした!元気がないぞ!うむ、こういうときは歌でも歌いながら行動するのが一番だ!何を歌おうか!さぁ君たちも!今私の願い事がかなうならばー♪」
深夜の森林という条件と周りへの迷惑を完全に無視しレッドは大声で歌いだす。片手にイエローを引きずり。チョイスした曲は『翼をください』。
是非、さっき翼が欲しかった。3人の隊員は揃って思ったが、口には出さなかった。そんな気力ナッシング。
「ふぅ…いきますか…」
ブルーもグリーンもピンクも未だに動悸が収まらないが、立ち往生していても仕方ないと判断し仕方なくレッドについてゆく。
「この大空にー♪翼を広げー♪…ん?」
どこまで外せば気が済むのかというぐらい音程を外しまくった歌声がサビに差し掛かったとき、それは鳴り始めた。
ばしん。
ばしん。
一定のリズムで奏でられるその音は、誰かさんの公害行為を除けばとても静かな森の中に、よく響いた。
それを聞く限りでは、いったい何によってその音が発生しているのかはわからない。
「むむ!聞けば聞くほど怪しいこの怪音は!間違いない!ピロシ殿が言っていたモノだ!多分!行くぞ皆の衆!全速前進超特急だ!」
当たり前のように隊員の返事は聞かず、レム睡眠だろうがノンレム睡眠だろうがいつでも好きなときに好きな夢を見る能力を会得していそうなイエロー隊員を引きずって文字通り全速前進。
音の発生源をどこに見定めたのかは知らないが、道なき道をずんずんと進んでいく。
「ホントに考えるという行為をしない方ですね、あの人は。…どうです、グリーンさんもピンクさんも、そろそろ落ち着きましたか?」
「まぁ…」
「なんとか…ですわ」
先ほどのトロッコダイブがまだ尾を引きずっている模様。当然といえば当然だが。
「僕もなんとか落ち着いてきました。仕方ないからリーダーを追いましょう。立てますか?」
手を差し伸べて、グリーンとピンクが立ち上がるのを手助けするブルー。と、そのとき。
「キサマッ!なぜココに!」
レッドの声だった。レッドの叫び声が、森にこだましたのだった。
いったい何が起きたのか。3人は今出せる精一杯の速度でレッドの足跡を追った。
「そうか、犯人はキサマだったのか!」
どうやら今回の任務の確信に迫る発見をリーダーはしたらしい。3人の隊員はせっせ足跡を辿る。
そして――。
「どうしたんですかリーダー。…ん?」
草木を掻き分けてたどり着いた場所には、我らがリーダーと――。
「あなたは…」
「どうした?…あ、お前は」
「どうしましたの?…あら、貴方は」
――もう一人。
「…なんでお前らがここにいるんだ?」
そう言いながら鋭い眼光でチャオレンジャー達を睨み付ける――チャクロンが居たのであった。
…
チャクロン――彼はチャオレンジャーと同じく、シティエスケープガーデンでチャレンジレースの番人をしているチャオである。
チャレンジレースを制覇するためには、彼と二回戦う必要がある。特に二回目の対戦では彼も本気でかかってくるため、勝つのはなかなか難しい。チャクロンに勝つことができず足踏みをしているチャオも多い。
しかし、その二回目の対戦でもチャクロンは十人目として配置されている。チャオレンジャーは十一人目。
「つまり!我々の方がレベルが上なのだよはーっはっはっは!」
心底嬉しそうに、レッドはくるくる回りながら狂ったように笑う。いや、狂っているのか。
信じられないかもしれないが、ランナーとしての実力はチャクロンよりチャオレンジャーのほうが上なのである。別に、レース中五人でよってたかって妨害行為を働いたわけではない。
キチンとタイムを計測し、チャオレンジャー全員(若干一人除く)チャクロンの記録を上回ったからである。
「さーてと!では本題に入ろう!今回の事件の犯人はズバリ言うわよ!チャクロン、キサマに間違いないのである!」
ズビッシィ!とこれでもかといわんばかりに右手をチャクロンに向かって突き出す。本人は人差し指を突きつけているつもりなのだろう。
「…事件?なんのことだ」
頭のポヨをハテナマークにして首を傾げるチャクロン。
その両足には、プロテクターのようなモノが装備してあった。