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そう言ってはは、と小さく照れ笑いをしてみせる。
ピロシと名乗る探険家は、ヘルメットをかぶり、大きなリュックサックを背負い、上下ともに半そで半ズボン、ベージュ一色といういかにも探検家らしい格好だった。――本来顎の下でとめるはずのヘルメットの両側頭部からぶら下がっているベルトの左側が、切れてしまっていて右側の半分以下の長さになっていた。
そして、頼んでもいないのに自己紹介を始めるレッド。
「私の名はレッド!いずれ世界にその名を何らかの形で轟かせる予定である!今すぐその頭に深く深く刻み込んでおいてくれたまえ!」
腰に手をそえこれでもかとふんぞり返って大声で叫ぶレッド。
ピロシは
「はぁ…」
と、きょとんとした表情で立ち尽くしている。
「申し訳ありません。コレは、このレッドと名乗る方に出会った方々すべてに申し上げてきたことなのですが、この方は行動と発言の基盤が非常識で出来ており、まともに応対しようとしても無理なのです。猿に因数分解の解き方を教えようとするようなものです。なので、この方の行動、発言にはすべて無視で対応して頂きたいと心よりお願いしたいのです」
ひらりとトロッコから降りたブルーは開口一番、レッド無視を推薦。
ぞろぞろと降りてきたグリーンとピンクも、うんうんと頷きそれに賛同する。イエローは寝てる。
「君たちはどこまで私を罵れば気が済むのだね!まぁよい!私が世界に認められたとき、君たちも私のすばらしさを思い知ることになるだろう!いつか必ず『あぁ、あの時自分はなんてコトを言ってしまったんだろう』と後悔するときが来る!心して待っているがよい!」
「あなたが世界に認められるなんて、世紀の大犯罪者以外思いつきません。僕がテレビで『確かに、昔からそんな兆候はあったんです。奇怪な行動も多々ありました…』なんていうインタビューに答える機会ならありそうです」
「あ、あの~…」
完全に置いてけぼりにされたピロシ。さっきと同じくおどおどと話しかけける。
「ん?あぁ、すまんすまん!他の隊員の紹介がまだだったな!こっちの青いのがべ・ヨンジュン。緑のがポク・ヨンハ。ピンクのがチョ・ジウで、黄色のがプルコギである!」
「へぇ、個性的な名前だね」
「違うのですピロシさん。嗚呼、ですから無視してくださいといったのに…」
…
「なるほど。わかりやすい名前だね」
ブルーから改めて紹介を受け、納得の表情でうなずくピロシ。
「ところで、君たちはこんなところで何をしているんだい?チャオガーデンなら向こうだよ」
と、先ほど暴走トロッコが猛烈な勢いで飛び出してきた洞窟を指差す。
「あんなせまっくるしいガーデンで大人しくしている我々ではない!ピロシ殿!尋ねたいことがある!」
「なんだい?」
大人しくしていないのはリーダーのみなのですが。
と、ブルーは心の中で突っ込んだが、そんなことは知る由もなく。
「我々チャオレンジャーは、常に正義の名のもと行動している!この辺りで、何か事件は起きていないかね!起きていれば教えてほしいのだ!」
「事件?そうだなぁ…」
何が正義だ。森を焼き尽くそうとしていたくせに。
と、グリーンは心の中で突っ込んだが、そんなことは知る由もなく。
「何でもいいのだ!何かないかね!例えば森に入ったきり仲間が帰らないとか!」
「うーん…あぁ、そういえば」
心当たりでもあるんでしょうか。
と、ピンクが突っ込んだが、そんなことは知る由もなく。
「そういえば、近頃気になることがあるんだけど…」
「なんだね!言ってくれたまえ!」
目を爛々と輝かせてピロシに詰め寄るレッド。
それは、事件が起こることを望む警察官のような、患者がやってくるのを望む医者のような。つまり危険。
「今森の中には、数日前から数人の探検隊員が潜入してる。で、僕はまだ新米だからココで留守番をしているのだけれど、夜中になると音がするんだ」
「音?」
「うん。向こうのトロッコが見えるかい?」
と、ピロシが指差す先には一台のトロッコが佇んでいた。そのトロッコはレールの上に両輪をキチンと乗せており、その線路の先は洞窟になっていた。
「あのトロッコに乗っていくと深い森に出るのだけれど、あそこの洞窟の奥から音や、声みたいなものが聞こえるんだ。なんだか怖くって」
「なるほど!うむ!重大事件の臭いがぷんぷんするぞ!」
「何でもかんでも事件に絡ませないでください。…ピロシさん、貴方も探検家なのですから、あなた自身が調査に赴けばいいのではないでしょうか?」
呆れ果てたブルーは、ご丁寧に情報をよこしたピロシを恨みつつレッドが『今夜早速調査に向かうぞ!』なんて言い出す前に、チャオレンジャー出動以外の道へ進もうとした。が。
「僕かい?僕はダメなんだ。まだ新米だから勝手に森に入っちゃいけないんだよ。あぁ、いつになったら一人前扱いしてくれるのかなぁ。だから君たち、代わりに行ってくれるかい?――見つけてくれるかい?」