~ぎんぎらぎんにさりげなく編~ ページ2
そういってブルーとピンクは立ち上がり、教室を出る。
向かう先は、闇の取引所。
「さて、働き場所の模索もいいですが僕が今考えなければならないのはお昼のメニューですね。どうしましょう、先日新しく入荷したという『地中海風木の実』でも食べてみるとしますかね」
ブルーがロッカーの扉を開けようとしたとき、ピンクの抗議の声が聞こえた。
「お待ちなさい。ソレは通常の木の実の3倍以上のお値段を誇るではないですか」
「そうですよ?せっかくのおごってもらえるのですから、ここぞとばかりに高いものを注文しないと」
「調子に乗らないでください。私が出すつもりでいたのはごくごく普通の木の実のお値段までです。足りない分は貴方がお出しなさい」
「あ、いいんですか?僕はソレで一向に構わないですよ。ピンクさんがお金を出してくれるのには変わりないですからね」
「…やはりこんな中途半端が許されるわけがありません、あぁそういえば生憎今日は余分なお金を持ち合わせておりませんのあら嫌だちょうど木の実一つ分しかもっていませんわ残念ながら貴方におごる事は不可能ですそれではごきげんよう」
早口で一気にまくし立てたピンクは、さっさとロッカーに入り速攻で木の実を買い終え、すぐにロッカーをでて幼稚園を脱出しようと早足で歩く。
「あ、なんかずるいなソレ。待ってくださいよピンクさん」
ブルーもさっさと『地中海風木の実』を購入し、すぐにピンクの後を追いかけた。
…
…さて。人は時に、神というものを信じ、そして祈る。
例えば、危機的状況に追い込まれたとき。神様助けて、と。
例えば、信じがたい光景を目の当たりにしたとき。神様嘘だと言ってくれ、と。
例えば、宝くじを買ったとき。神様お願い、と。当たってくれと。マジでと。
だが、それらの祈りが神に通じたと確認した人間はこの世にいないだろう。仮に祈ったとおりの展開になったとしても、ソレは祈りが通じたのではなく、ただの偶然だったのかもしれない。
しかしご安心を。神様は、ちゃんといるのだ。そして、人々の願いをちゃんと聞いてくれているのだ。…ただし、その願いが叶うかどうかは別問題である。
例えば先ほどの、ブルー隊員の願い。「なにかこの記憶力を活かすことはできないものか」。
その願いは数分の時間を要して、天上の神様の元へと届いた。神はその願いを受け、『記憶力を活かすことのできる出来事』がブルー隊員の『身に降りかかる』ようにするよう、決心した。
神様がご機嫌な状態であれば、ブルーに『カラオケ歌詞見ないで歌い切れたら100万リング』に出場する機会でも与えてくれたのかもしれない。
ブルーにとって不運だったのは、この日この時、神様の虫の居所がちぃーとばかし悪かった事である。
神様がこの願いを受けたとき「よし、コイツに意地悪をしてやろう、にしし(笑)」とにやけ面を浮かべて呟いたのを、当然ブルー隊員は知る由もなく、知る手段もない。
神様が決心したこの瞬間、ブルーに不可避の災難が降りかかることが決定事項となってしまった。
そしてついでに、ピンク隊員にも降りかかることが決定事項となった。いや、近くにいたからついでに(byGOD)
―チャオガーデン―
「うん、なかなかおいしいですよ。ふんわりとした食感に、程よい塩加減で。あぁ、でも食べていると飲み物が欲しくなってきますね。飲み物も一緒に購入しておくべきでした。ピンクさんも食べてみますか?」
両手に持った『地中海風木の実』なるものの感想を述べ、その手を差し出しピンクにも勧めてみる。
普通の、何の変哲もない木の実を黙々と食べ続けるピンクは
「結構です」
と断った。手を引っ込めるブルー。そして再び木の実にかじりつく。
そんな穏やかなお昼の時間が永遠に続くとしたら、どんなに幸せな事か。何もお昼に限らずとも、静かで穏やかな時間に永遠に身を委ねていたいと思ったことはないだろうか。
しかし『時間』と言うものがノンストップをポリシーとしている以上、同じ時間に居続けると言う事は不可能である。時は常に動き続ける。「少し休憩したら?」と提案した所で、「必要ない」と一瞥し走り去ってしまう。給水所になんか目もくれない。
そんなもんだから隊員達のごくわずかともいえる穏やかな時間は、例によって彼のおかげでいとも簡単に吹き飛ばされてしまうのである。
ブルーが『地中海風木の実』を半分ぐらいまで食べた時、頭の上から聞きたくない声が聞こえてきた。『自動耳栓機』でもあれば確実に作動していた所だが、そんなものは手元になかった。
「やーやー皆の衆!素敵なラーンチターイムを満喫しておるようだね!」
腰に手を当て真上を向いて、いつのまにかブルー達の目の前に立っていたレッドは大きな声で叫んでいた。この麗かな午後をぶち壊すために現れた正義の使者である。
当然麗かな午後をぶち壊されたガーデン中のチャオから白い目や白い目や白い目で見られることになるのだが、当然そんなことは微塵も気にしない。