~ぎんぎらぎんにさりげなく編~ ページ1

第四話

初夏の日差し眩しい並木道を抜けた先に、チャオ幼稚園は建っている。

現在時刻は午前11時半。通常この時間帯はお昼前でお腹を空かせた子供チャオ達が走り回って先生達が場を収拾するのに苦労するのだが、今日に限ってはその例ではない。
今日の教室はとっても静かであった。なぜなら、収拾がつかなくなる原因である子供チャオ達がいないからである。ついでに、いつもなら大きく声を張り上げている先生達もいない。ちなみに今日の担当は園長先生であった。
何故、教室に誰もいないのか。その答えは、約一ヵ月後に迫ったチャオ幼稚園園児達によるお遊戯会に向けて、現在園児達は体育館(注・当然ゲーム中にはありません)でお遊戯の練習真っ最中だからである。零歳以上、一歳未満(人間の年齢で三歳以上、五歳未満)のチャオは、みんな体育館に集められている。
当然先生達も一緒に体育館にいる。つまり、幼稚園内には現在だーれもいないのである。30分後にはまた、給食をがつがつ食べながらみんなでわいわい雑談する園児でいっぱいの騒がしい教室に戻るのであろう。

そんな束の間の静寂を手に入れた教室に、何故かブルーとピンクの姿があった。それ以外は誰もいない。
教室には、なにやら妖しい声が静かに響いていた。

「よっ、と…」

ブルーの声だ。
ブルーのすぐ目の前に、ピンクがいる。二人を隔てるものは何もない。
そして、ブルーが微笑を浮かべているのに対し、ピンクはやや渋い表情をしている。

「ココですね…」
「あっ…」

思わず「あっ」と言う声を出してしまったのは、ピンクだった。刹那、わずかだが羞恥心によって頬が上気する。
ソレをブルーは聞き逃さなかった。

「どうしました?」

意地悪く訊いてみる。

「…なんでもありません」

あくまで凛とした態度を崩さないピンク。
ソレを見たブルーはまた意地悪い笑顔を浮かべて、

「そうですか…では」

一瞬動きの止まっていた手を再び動かす。ますますピンクの表情は渋くなる。
それでもブルーは攻めの手を緩めない。

「ココと…ココですね」
「あぁ…」

先ほどから喘ぐような声しか出せない。抗いたくても抗えないのである。
ピンクは苦虫を噛み潰したような顔で、何もできない悔しさを出せるだけ表情に出してみる。

「…どうします?やめるのなら今のうちですよ?」
「…やめません」
「…そうですか。…では、いきますよ?」

そういうとブルーはピンクの足元に手を伸ばす。ピンクは目を瞑って、観念した。

「よっ」
「あぁっ!」

ブルーがピンクの足元にある「ソレ」に触れた時、ピンクの頭が真っ白になった。
ブルーがピンクの足元にある――スペードのAが描かれたトランプのカードをめくった時。

「はい、僕の勝ちですね」

そういいながら、スペードのAを手札に加え、扇状に広げてピンクに見せ付ける。
カードは数字が全て2枚ずつペアになっており、合計で42枚。そしてピンクの手札はと言うと、ペアになっている事は同じだが枚数は圧倒的に少なくたった6枚。
二人が先ほどまで行っていた行為――神経衰弱は、言うまでもなくカードをより多く持っている者の勝ちである。つまりこの勝負は、ブルーの圧勝と言う結果を迎えたのだった。

「では今日のお昼ゴハンはピンクさんのおごりと言う事で」
「…貴方の辞書にはレディファースト、と言う言葉が足りないようです。今すぐ書き加えなさい」

ピンクはムスッ、とした表情で、横に置いてあったトランプの箱にまず自分の数少ない手札をしまい、次にブルーから42枚ものカードを受け取り、箱にしまって箱の蓋を閉める。そして後ろに乱暴に放り投げた。
なかなか機嫌がよろしくないご様子。

「ですから僕は26枚取った時点で提案したではないですか。この勝負なかったことにしてもいいですよ、って。最後のAをとる前にも確認しましたよ。とても親切に振舞えたと自負しているのですが。第一この勝負を持ちかけてきたのはピンクさんですし」
「わたくしの性格上、自ら持ちかけた勝負に尻尾を巻いて逃げるなどと言う事ができなかったことぐらい貴方にもわかっていたはずです。ココは貴方が手加減をし、わたくしに勝たせるべきだったでしょう。ソレが親切と言うものです」
「そんな無茶苦茶な」
「冗談です。…しかし、貴方の記憶力は、意外という他ありません。驚嘆にすら値します。よりにもよって何故賭けの方法に神経衰弱を選んでしまったのか、わたくしは悔やんでも悔やみきれません」
「いやぁ、暗記はなかなか得意なんですよ。例えば歌の歌詞を一回見ただけで覚えられますし、円周率なんか20桁ぐらいまで覚えていますよ。今から言いましょうか?」
「結構です。もっとほかの事に使い道を見出したらどうなのです?せっかくの能力も宝の持ち腐れになってしまいますわ」
「全くですね。僕も教えて欲しいぐらいです。この記憶力を活かすことにより人様に、あるいは自分に利益が出るような使い道を」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第121号
ページ番号
1 / 14
この作品について
タイトル
チビッコ戦隊チャオレンジャー!~ぎんぎらぎんにさりげなく編~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第121号
最終掲載
週刊チャオ第124号
連載期間
約22日