第二話 ページ1
チャオの頭の上には、「ポヨ」と呼ばれる、不思議な球体が浮かんでいる。
ポヨは、常にチャオの頭の上で浮遊を続け、まるで糸で繋がれているかのように、持ち主(?)のチャオの頭上から離れることは無い。
持ち主のチャオが右に動けばポヨも右に動く。チャオが飛べば、ポヨはその上を飛ぶ。
以前、実験をしたことがある。
カトレアを抱き上げて上下逆さにしてみたら、ポヨは逆さになったカトレアの頭の下に潜り込んだ。
離せ降ろせと、喚き暴れるカトレアに合わせて、ポヨもびょんびょん動いていた。が、ポヨがどこかへ行ってしまう、なんていうことは無かった。
ちなみに、ポヨにはまん丸な形以外にも、天使の輪のようなポヨや、トゲがたくさんついているウニのようなポヨもあるらしい。
とにかく、不思議な球体である。
しかし、たった今紹介した以上に、ポヨには大きな特徴がある。
それは、チャオの感情に合わせて、ポヨがその形状を変化させると言うものだ。
例えば、チャオが幸せだと感じたときにはハートマーク、不幸だと感じたときにはばねのようにぐるぐるになる。
また、びっくりしたときには感嘆符、不思議だと思ったときには疑問符など……。
頭の上でふらふらしている姿を見ると、ただの飾りのように思えてしまうけれど、でも、チャオにとっては非常に大切な物であるに違いない。
詳しいことは分からないけれど、僕はそんな気がした。
…
日曜の朝。僕は自宅のリビングで、横長の二人用のソファを占領し、寝転がりながら漫画を読んでいた。
首を少し上げると僕が手に持つ漫画の先で、カトレアが、僕が寝転がっているのと同じ種類のソファにちょこんと座っていた。二人用のソファだが、カトレアなら六匹は余裕で座れるだろう。
二つのソファは、四角いテーブルの二辺を囲むように置かれていて、カトレアの向かいには、テレビが置いてある。
そのテレビには、アニメが流されている。カトレアは、このアニメを「コドモ」の時――つまり、一次進化を果たす前から、毎週欠かさず見ている。
無表情で、テレビをじぃ~っ、と見つめるカトレアを見て、僕はふと思った。
最近、カトレアのポヨが変化したところを見ていない。
コドモの時は、木の実を食べればハート、楽しく遊べばハート、いま流れているアニメを見ている時だって、ポヨはハートだった。
ところが、「オトナ」になってから、カトレアはほとんどポヨを変化させなくなった。
オトナになれば、ある程度ポヨの変化をコントロールできる、と言う話を聞いたことがある。
オトナになって、精神的にも落ち着くためだろうが、それにしても、カトレアは全くといっていいほどポヨを変化させない。常に球体である。
確かに、頭の上で自分の感情が全部筒抜けというのも、少々不便かもしれない。
仮面をつけて生活したいとは思わないが、自分の心の内が全部見られているというのも、それはそれで落ち着かない生活かもしれないと想像でき、それは人間もチャオも同じかもしれない。
でも、そんなことは全然気にしないという所が「チャオ」という生き物の純粋さを物語る部分であり、チャオが世界中の人々に愛される理由であると、僕は考える。
何より、チャオがポヨをハートにしてくれると、見ている僕らが幸せになる。だから僕は、少しでもカトレアのポヨがハートになっているところを見たい。……の、だが。
カトレアはアニメを見ている間、ずっと無表情、ついでにポヨも無表情だった。
僕は、思った。久々に、カトレアがポヨをハートにするところが見たい、と。
そして、決めた。
今日一日使って、カトレアのポヨがハートになるところを見よう、と――。