第一話 ページ4

 デパートからの帰り道。僕は、カトレアに怒られながらとぼとぼ歩いていた。
 左手にはカトレアを抱え、右手にはビニール袋をぶら下げて。
「大体、ワカバはぼーっとしすぎ! いっつも、意識が途中でどっかに飛んでる! そんなに飛びたければ、エベレストからバンジーしろ! 紐なしで!」
「だから、ごめんって」
 確かに僕は、ぼーっとしていると、よく言われる。
 注意散漫、と言う奴だろう。改善する努力をするべき、悪い癖だと自分でも思う。
 ただ、そのことをずばりカトレアに、それも強い調子で言われたものだから、僕は少々、ばつが悪い。
「カトレアだって、何もあんなに大声出すこと無いじゃないか」
「うるさい! ワカバのくせに口答えするな!」
「……」
「……」
 カトレアは、ぷい、と前を向く。
 それきり、お互い黙ってしまった。しばらく、沈黙を引きずりながら歩く。
 右手にぶら下げるビニール袋の擦れる音が、耳障りなほど大きく聞こえる。
「……ワカバ」
 突然、カトレアが呟いた。
「何?」
 僕は、カトレアの次の言葉を待った。
 カトレアは、両手で自分の頭を――後ろに伸びた、二本の角のような部分を――さわさわと撫で始めた。
 しばらくそうしていて、俯き加減に前を向いたまま、絞り出すような小さな声で、こう言った。
「……ツインテールは、嫌い?」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第288号
ページ番号
4 / 37
この作品について
タイトル
~チャオの奴隷~
作者
宏(hiro改,ヒロアキ)
初回掲載
週刊チャオ第288号
最終掲載
2010年2月14日
連載期間
約2年4ヵ月26日