第一話 ページ4
デパートからの帰り道。僕は、カトレアに怒られながらとぼとぼ歩いていた。
左手にはカトレアを抱え、右手にはビニール袋をぶら下げて。
「大体、ワカバはぼーっとしすぎ! いっつも、意識が途中でどっかに飛んでる! そんなに飛びたければ、エベレストからバンジーしろ! 紐なしで!」
「だから、ごめんって」
確かに僕は、ぼーっとしていると、よく言われる。
注意散漫、と言う奴だろう。改善する努力をするべき、悪い癖だと自分でも思う。
ただ、そのことをずばりカトレアに、それも強い調子で言われたものだから、僕は少々、ばつが悪い。
「カトレアだって、何もあんなに大声出すこと無いじゃないか」
「うるさい! ワカバのくせに口答えするな!」
「……」
「……」
カトレアは、ぷい、と前を向く。
それきり、お互い黙ってしまった。しばらく、沈黙を引きずりながら歩く。
右手にぶら下げるビニール袋の擦れる音が、耳障りなほど大きく聞こえる。
「……ワカバ」
突然、カトレアが呟いた。
「何?」
僕は、カトレアの次の言葉を待った。
カトレアは、両手で自分の頭を――後ろに伸びた、二本の角のような部分を――さわさわと撫で始めた。
しばらくそうしていて、俯き加減に前を向いたまま、絞り出すような小さな声で、こう言った。
「……ツインテールは、嫌い?」