第四話 ページ3
僕の腕の中で、タマは大変満足そうな表情で安らぎのひと時を迎えている。タマがご機嫌な
のをいいことに、僕はまたタマを撫で始める。そういえば、猫の肉球を触ると気持ちいいと言
うけれど、本当だろうか。触ってみようかな……って、まるで今の僕は、カトレアを弄って楽
しんでいたさっきまでのタマのようだ。
「カトレア、大丈夫?」
僕はタマを撫でながら、カトレアに目を向ける。完全敗北のショックをまだ引きずっている
ようで、扇風機の首が自分の方へ向く度に声を出して「あ゛ー」という不快な音を撒き散らす。
何時までもいじけたままでは可哀想だ。何か、機嫌がよくなることを考えてみる。
「かき氷でも食べようか?」
「食べる」
仏頂面を崩さずに、ちょっぴり怒気のこもった声で返事をするカトレア。機嫌が直るまでし
ばらくかかりそうだ。
僕は小さなかき氷屋さんになるために、小さなペンギン型かき氷機を引っ張り出そうと台所
へ向かおうとする。そのためにタマを腕の中から降ろそうとしたのだが、そのタマが僕のTシ
ャツをしっかり掴んで離さない。
「ごめんね、ちょっと待っててね」
改めて降ろそうとするが、それでも離れない。それどころか、Tシャツに噛み付いて引っ張っ
たりしている。このTシャツが気に入ったのだろうか。それとも今度は、僕が遊び相手のター
ゲットとしてロックオンされてしまったのだろうか。
「にゃあ」
タマの真意をはかりかねていると、タマがさささっと僕の体を上ってきて、顔を近づけてき
た。そして、僕の口元を舐め始めた。
「んがっ!」
今、カトレアの変な声が聞こえた気がする。それはともかく、口元を舐めていたタマが、今
度は弱い力ながらも噛み付いてきたので、僕は少し慌てて両手を前に突き出してタマを遠ざけ
る。
「いてて」
僕が痛がる素振りを見せると、タマがするりと両手から抜け落ちた。手で口元を擦ってみる。
特に出血はしていない。
「カトレア?」
カトレアが、じっと僕を見ていた。なんだか、物凄いものを見たような顔で。ポヨはエクス
クラメーションマークにして。
「……」
しばらくじっと見つめられていたかと思うと、急に駆け出して行ってしまった。リビングを
出て、二階へ続く階段を羽を使って飛び上がっていくのが見えた。
一体、どうしたというのだろう。僕は慌ててカトレアを追いかけ、階段を駆け上がって行った。