第三話 ページ3
「いやー、冬はやっぱりコタツでみかんだね。別にあたしはコタツにりんごでも問題ないけど」
着替えを済ませてリビングに戻ると、早苗達がコタツで暖を取っていた。
コタツに足を突っ込んで、おいしそうにみかんをほおばる早苗。
一個目のみかんを音速で平らげた早苗は、早速二個目のみかんの皮を剥き始める。
無駄の無い動きですばやく皮を剥き、ぱくぱくと果肉を口に放り込んでいく。多分、三個目も射程圏内だろう。
「ワカバ殿、先ほどの話の続きなのですが」
「え、あぁ、どうぞ」
早苗の懐に抱かれる形のあずき君が、真剣な眼差しを僕に突き刺す。
「カトレアさんに会わせて頂きたいのです。会って今日こそこの想いを伝えるのです。貴女の姿を一目見たとき、貴女の言葉を一つ聴いたとき。僕の体に流れた一筋の閃光は、まさに運命の始まりを告げるセレモニーベルであったと。貴女と共に歩みたい、光り輝く未来へと続くロードを……。さぁ、ワカバ殿。カトレアさんに会わせて下さい。ダメだと言うのならば、この拳で貴方を倒してでも」
「いや、まぁ、ここにいるんだけど」
僕は、コタツの布団をぺろりと捲る。
その下では、カトレアが猫のように体を丸めて寝息を立てていた。
コタツで寝ると、風邪引くんだぞ。
「カトレア。ほら、お客さん」
カトレアの頬をぷにぷにと突っついてみる。迷惑そうに顔をしかめたカトレアは、細い目で僕を睨んだ。
「なぁにぃ……?」
心底眠たそうだった。ぐてっ、と寝転んでいるカトレアを抱き上げる。
そして、少々強引にあずき君をカトレアの視界に入れる。
「どうも、お久しぶりですカトレアさん。今日は貴女に、どうしても伝えたいことがあるのです」
ぺこりと頭を下げるあずき君。先ほどよりも、より引き締まった顔つきになった。
カトレアは、まだ寝惚け気味の頭と眼で数十秒、しっかりとあずき君を目視したあと、呟いた。
「聞きたくない、帰れ」
「ちょ、ちょっとカトレア……」
問答無用の門前払いだ。カトレアは僕のお腹の上で、再び布団を被って丸くなる。
「ごめんね、コイツ、なんか機嫌悪いみたいで……」
気を悪くしただろうと思って、僕はあわててフォローに入る。
「……いい」
しかしあずき君は、僕にとっては意外な反応を示した。
「いい、いいです! その心臓を突き刺すような、氷の矢の如き冷淡な言の葉! 僕の乾いた心に安らぎを与える、まさに魔法のオアシス! 貴女の心を覆い隠す絶対零度の言葉の数々。何時の日か、何時の日か僕の情熱の炎で貴女の凍てついた心を燃え上がらせて見せる! カトレアさん、僕と共にファイアー!」
コタツの上で右手を突き上げて叫ぶあずき君。
あまりに突拍子もない反応だったので、どう対応していいかわからず呆気に取られていると、四個分のみかんの川を目の前に撒き散らした早苗が言った。
「ごめんね、この子病気なの。頭の」
どうでもいいけど、四個も食べたのか。