第三話 ページ1
四年前。僕の小さな腕に抱かれた卵からカトレアは生まれ、それから僕とカトレアはずっと一緒に過ごしてきた。
遊ぶのも、寝るのも、喧嘩するのも、ずっと一緒に体験してきた。
だから、カトレアのことは何でも分かっているつもりだった。
カトレアの良い部分、直して欲しい部分。カトレアが好きな物、嫌いな物。カトレアがして欲しいこと、して欲しくないこと。
でも、そうではなかった。
その小さくて愛らしい姿を見ているとつい忘れがちだけれど、チャオも僕たち人間と同じように常に成長し続けているのだ。
そしてそれを理解してあげるためには、僕達育てる側も成長していかなくてはならない。
目に見える部分も、見えない部分も、共に成長をしていくことによって、いつかお互いのことを理解できたと言える日が来る。
そう改めて感じたのは、年越しを目前に控えた十二月二十五日、クリスマスの日の事だった。
…
「ほらカトレア、雪だよ雪」
僕は、腕に抱くカトレアに囁きかける。しかしカトレアは、僕の腕に抱かれたまま眠っているようだった。
すでに冬休みに突入し早起きをする必要がなくなったのと、冬の朝の布団の居心地の良さのせいで、今日僕が起床したのは午前十時を回ってからだった。
何時にも増して冷え込んだ部屋の中でのろのろと体を起こして窓を覗くと、そこから見えたのは、沢山の雪がふわふわと降っている様子だった。
眠気の吹き飛んだ僕は、隣のカトレアを抱き上げ、部屋を出て階段を駆け下りる。
そして今、リビングで外の様子を眺めている。
リビングの窓の外に広がる、神秘的な銀世界。空からは小さな結晶が絶え間なく降り続き、遠くまで見える地面は全て白色に塗られている。
滅多に出会えないこの雪景色に、僕は興奮を隠せずにいた。
「ほら、カトレアも見てみなよ。綺麗だよ」
僕がしつこく呼びかけると、ようやっとカトレアが反応がした。
「……雪ぐらいで……がたがた……うるさい……雪で……溺れて……死ね……」
むしろ、今にも死んでしまいそうな小さな声だった。
僕の腕からのそのそと這い出て、羽を使ってゆっくり床に降り立ったカトレアは、ふらふらとコタツに向かって歩き、潜り込んで寝てしまった。
「ホワイトクリスマスだよー? 貴重だよー?」
そう言ってみたけれど、コタツの布団から頭だけちょこんと出したカトレアから返事は返ってこなかった。
仕方ない、一人で眺めていよう。
寝巻きを脱ぐのも、寝癖を直すのも忘れて、僕はしばらく真っ白な景色を楽しんでいた。