第一話 ページ2
うだるような暑さの中、僕とカトレアはまだまだ歩いていく。メロンジュースは買ったその場で飲んでしまい、缶は自動販売機の隣に設置してあった空き缶用ゴミ箱へ捨てた。
歩きながら、カトレアの、主に外見的特徴を紹介したいと思う。
まずは、体の色。全身、鮮やかなピンク色で、表面がツヤツヤに輝いている。ツヤピンク、という奴だ。
通常のピンクチャオと比べて、ツヤが入っている分、見る角度によってピンクが濃く見える部分と、薄く見える部分がある。そのグラデーションが僕には、美しいピンク色の花のように見える。
その鮮やかなピンク色の顔には、大きな瞳が二つと、小さな口が一つ張り付いている。
大きな瞳は、カトレアが眠っているとき以外、つまり起きて行動している間は、いつもほぼ大体吊り上っている状態だ。
そして小さな口は、喋ったり物を食べているとき以外、つまり口を動かしていない時は、いつもほぼ大体への字に結ばれている。
要するに、ムスッとした、怒っているような表情がカトレアのデフォルトなのだ。
ただし、カトレアの場合は、表情だけでなく本当に怒っている場合が多い。原因は……僕であることが多いようだ。
ちなみにカトレアはその怒りを、大体の場合は、直接僕を罵るという形で体外に放出すると言うことは、先ほどのシーンで分かってもらえたと思う。
話を、外見的特徴に戻そう。
トビチャオに進化したカトレアには、背中に普通のチャオとは違う、大きな羽がある。体と同じように、薄くピンクに色付いた、まさに花びらのような美しい羽である。
これは、トビチャオにしか現われない特徴のひとつである。さらに、頭部の形状にも、トビチャオ特有の特徴が現われている。
カトレアの頭の後ろには、二本の角がある。正確に言えば、二本の角のように、頭が出っ張っているのである。
ぱっと見、小さな女の子に多く見受けられるツインテールのような形だ。少し上に伸びたあと、下に向かってゆるりと円を描くような形になっている。
鏡の前で、カトレアはよくその部分を手で弄っている。。女の子が、髪を整えるのと同じようなものだと思う。
その光景を見る度に、カトレアの意外な女の子らしい一面に、僕は顔がほころぶ。
チャオに性別は無いけれど、その性格や仕草で、イメージは出来る。人間として生まれていたなら、カトレアはきっと、元気な女の子だろう。
少なくとも、僕はそう思っている。
「ワカバ! またちんたら歩きやがって! 常に私の真後ろに居ろ! それが出来ないなら死ね! 豆腐の角に頭ぶつけて死ね!」
気が付くと、カトレアは随分前にいた。どうやらまた距離を離されてしまったようだ。
僕はまた、カトレアの元へ駆け足。
「ごめんごめん」
「謝って済むことばかりだと思うなよ! ましてや、同じ過ちを繰り返すなど言語道断! 死ね! メモカのデータ全部消えて死ね!」
「もう離れないようにするからさ……ほらっ」
「!」
僕は、両手でカトレアを拾い上げ、胸の前で抱きかかえる。
チャオのくせに、人間の大人と変わらないスピードで歩くカトレアにとって、僕の歩行スピードは我慢ならないものがあるかもしれないが、こうすれば離れることは無い。
「行こっか」
僕の方を向いていたカトレアは、僕の手の中でもぞもぞと反転し、進行方向へ体を向ける。
そのあと、消え入りそうなか細い声で、一言呟いた。
「……うん」