その10
<その10>
【霜月】「こんなところで2人が出会うなんて・・・こんなこともあるのね。」
2人の北川佑香は、お互いを見た途端、凍りついたように黙ってしまった。
・・・っていうか、ヤバイよ。
同一人物だから顔や姿も完全に一緒だし、よりにもよって上から下まで同じ服着てやがる。さすが同一人物。
今は俺達の横に「部長」がいるから分かるが、シャッフルされたら絶対判断つかねぇ。
どんな感覚なんだろうなぁ。って、普通に生きててこんなこと体験できるはずねぇか。
唯一あり得るとすれば、赤ちゃんの時に生き別れになった一卵性双生児が奇跡の再会をした時か?それも普通に生きてちゃありえないが。
【俺】「シャッフルされたらどうしよ・・・」
【月島】「部長さんの方が虻石のネックレスをつけてますけど、もう1人の方はつけてないです。
今見分けるとしたら、これしかないですね・・・」
それがあったか。さすが月島先輩。
そしてその次の瞬間、さらにトンデモナイ事態が発生しやがった。
【霜月】「・・・こ、これは・・・!!」
【俺】「霜月さん、どうしたんですか?」
【霜月】「あれを見て。」
と、霜月さんが指した方にあったのは、黒い光を放つもの。それが何だかは、よく分かんねぇ。
なんか、ブラックホールみてぇ、と言えばいいのかなぁ。
【俺】「これ、何ですか?」
【霜月】「次元移動のトンネルよ・・・これに飛び込めば、帰れるわ・・・!」
【俺】「!!」
【月島】「帰れるんですか!?」
よっしゃあっ!!
20日夕方から丸三日。思ったより早く帰ることができそうだ!
【霜月】「・・・帰るのね?」
【俺】「はい・・・確かに、こっちの世界は楽しいかも知れない・・・けどやっぱり、俺はあっちの世界で生まれた人間だから。」
【月島】「あっちには家族や友達もいますし・・・やっぱりそういう人に心配かけたくありません。」
【霜月】「そう。ならば、あなた達は帰るといいわ。あたしはまだこっちにいるけどね。
・・・でも、あの人はどうするの?」
と、霜月さんは、「彼女」を指した。
【俺・月島】「・・・部長・・・!!」
マジで大問題発生じゃねぇか。どっちの北川佑香をあっちの世界に帰すんだ?
俺や月島先輩はこっちにいたのが3日だから迷わずに帰ることができるが、よりによって部長は7年間も別世界で暮らしてる。
【少年】「次元移動が現れたか・・・」
そこに現れたのは、昨日俺に色々と教えてくれた少年だ。
【霜月】「あら、久しぶりね。」
【少年】「どもっす。・・・あー、ややこしいコトになってんのか。」
【月島】「あなたも帰らないんですか?」
【少年】「ああ、オレも霜月さんと同じで、こっちが面白くなっちゃったタチでね。もうしばらくこっちにいるつもりだけど。」
【月島】「そうなんですか・・・」
すると少年は、2人の北川佑香のところへ向かい、こう言った。
【少年】「分かってるとは思うけど、あっちの世界へ帰れるのは1人だけ・・・でなければ色々と問題が起こるし。
そして、どっちが帰ってもいいけど、自分達で決めること。」
すると、部長の方の北川佑香が、答えた。
【北川】「ええ、分かってるわ・・・」
そして少年は、俺達の方に向き直して、
【少年】「2人は、どっちが帰ってきても、その判断を受け入れること。やり直しがきく確率は低いからね。」
と忠告した。
【月島】「はい・・・」
【俺】「ああ・・・」
俺達も元よりそのつもりだ。
すると、2人の北川佑香が、話を始めた。何を話しているかは聞き取れねぇ。たぶん、どっちが帰るか相談してるんだろう。
なんだか長引きそうだったので、俺は霜月さんに言った。
【俺】「それじゃ、俺は先に帰ります。短い間でしたけど、ありがとうございました。」
【霜月】「いえいえ。元気でね。」
【月島】「私も後は、部長さんに任せようと思います。ありがとうございました。」
【霜月】「いつかどこかで、会う機会があったら・・・また会いましょう。」
【月島】「そうですね・・・」
【少年】「帰るのか・・・それじゃ、気をつけて!オレもどこかで再会できることを信じてるよ。」
【俺】「ああ!」
【月島】「はい!」
別れの挨拶をした後、俺は月島先輩と顔を合わせ、
【俺】「それじゃ・・・いきますか!」
【月島】「ええ!」
俺達は2人で手を振りながら、そのブラックホールのようなところに、飛び込んだ。
さよなら、週チャオ世界。色々と大変だったけど、最高の4日間だったぜ。
~~~~~
・・・気がつくと俺達は、元の世界に戻っていた。戻ってきた場所は、東京・銀座の某有名デパートの屋上。
モンゴルの大草原とか、太平洋ド真ん中とかだったらどうしようかと一瞬思ったが、とりあえず助かった。
【月島】「やっと・・・帰って来れましたね・・・」
【俺】「ああ・・・!」
気がつくと、雪がチラチラと降り始めていた。12月に東京都心で雪なんて、何年ぶりなんだろう。
そう思い、俺はふと空を見上げた。そして、心の中でこう言った。
全てのチャオラーへ、2日早くて間違ってない、メリー・ホワイト・クリスマス。
・・・嫌々チャオを育てていた俺に、こんな事を言う資格は無いかも知れないけどな。
<エピローグに続く>