その8
<その8>
≪12/22(金)≫
翌日。
月島先輩と相談した俺は、これから起こるであろう真実を、霜月さんに話した。
つまり、早ければ今日にも、街が水浸しになってしまうことを。
霜月さんはしばらく黙って考えた後、そして、口を開いた。
【霜月】「それじゃ、今日もみんなでデパートに行きましょう。霜月堂は臨時休業って事で。」
・・・だが、デパートの上層階のみで時間を潰すってのはなかなか難しいもんだ。本屋があって催場があってレストランがあるぐらいだからな。
屋上もあるにはあるが、この季節に外に出たくはないし。
という訳で、俺達は階段横にあったベンチに座っていた。
【月島】「でも、座っているだけというのも暇ですね・・・ちょっと散歩してきますね。」
【俺】「あ、俺、ちょっとトイレ行ってきます。」
・・・もちろん2人っきりになるのを狙った訳じゃねぇぞ。マジでトイレ行きたかったんだってば。信じてくれるかどうかは別問題だが。
第一、月島先輩が向かった方とトイレは別方向だったし。
俺がトイレを済ませると、ちょうど目の前に月島先輩が。
【月島】「あ、ちょうど良かった。・・・ちょっと話しません?」
【俺】「え、あ、ああ・・・」
うそぉーっ!超ラッキー!・・・まぁ、状況が状況だけどな。
という訳で、フロアを散歩しながら、話をすることに。
【月島】「・・・部長さんって、本当は・・・」
【俺】「ですね・・・誰にも言えない悩みを抱え、7年間周囲を騙し続けて、それでもなおあの元気で・・・」
【月島】「自分は異世界から来たと言って、信じる人間はいないでしょうしね・・・正直、私もですけど。」
と、そこに、1人の少年が俺達に声をかけてきた。
【少年】「チャオ同好会の2人・・・だね?話は霜月さんから聞いてる。」
【俺】「霜月さんの知り合い・・・ですか?後から次元移動してきて、色々教えたっていう・・・」
【少年】「うーん、多分そうだろうね。ちょっと、いいかな?」
【月島】「いいですけど・・・」
確か彼もソニアド持ってんだよなぁ。彼もパーフェクトカオスから逃げてきたのか。
【少年】「オレは次元移動してこっちに来てから、一体どうなってるのかって、色々と調べた。
次元移動のこと、この世界のこと・・・2人は、チャオの公式掲示板、「チャオのBBS」について知ってる?」
【俺】「参加してる訳じゃないっすけど、多少は・・・この世界、厳密には『第1期週チャオ世界』ですよね?」
【少年】「そこまで知ってるんなら話は早いかな。その通り、ここはソニック世界とは少し違う、似て非なるもの。」
・・・ところで、チャオ同好会の部長さんは、今どこ?」
【俺】「多分、あっちの方のベンチで休んでます。呼びますか?」
【少年】「いや、いいんだけどね。・・・それじゃ、本題。」
すると彼は一つ間を置いて、話し始めた。
【少年】「いきなり問題。初めてこの世界とあっちの世界が繋がったのは、いつだと思う?」
【俺】「・・・そりゃ、ソニアド発売の時の、98年12月・・・」
と、俺が答えようとしたのと、月島先輩が遮った。
【月島】「ちょっと待って!違うんじゃないんですか?だって、ここは週チャオ世界。早くとも、週チャオが創刊するまでは・・・」
【俺】「あ、そうか!」
そういやそうだ。何ボケてんだよ、俺。
となると、週チャオが創刊されてからこの世界観ができるまでに少し時間がかかったはずだから、・・・いつ頃かなぁ。
【少年】「その通り、98年12月23日というのは間違い。
それに、『世界』が完成しても、普通は次元移動なんか起こることなく存在し続ける。」
【月島】「どういう事ですか?」
【少年】「『世界』と『世界』が繋がるには、何らかの力が必要、ってコト。
・・・その『力』が2つの世界の間に加わったのは、ソニアド発売からちょうど1年の、99年12月23日。」
【俺】「その時、何があったんすか?」
【少年】「・・・気づかない?99年12月23日の週チャオ、というかチャオB。」
【月島】「まさか・・・!?」
【少年】「そう。オレも最初、まさかとは思ったんだけどね。
あの時のチャオ誕生祭で、チャオBユーザーが集まり、最高に盛り上がった。その時、本人達の気づかないうちに、ある『奇跡』を起こしていた。」
【俺】「それが・・・『世界』を繋いだってのかよ・・・」
少年はコクリと頷いた。またまたサプライズ。チャオブリーダー達が起こした奇跡だったのかよ!
【少年】「そして、その時最初に次元移動したのが・・・チャオ同好会の部長さん、北川佑香だったみたい。」
【俺】「!!」
そうか、そういう事か!だから99年冬なのか!これで点と点が繋がって線になった!
つまり北川部長は12月23日に次元移動して、事態を飲み込んでチャオをゲームの中に見つけたのが冬休みって訳か!
【俺】「なんか、いっぺんに謎が解けたような気がします。ありがとうございます。」
【少年】「いえいえ。それじゃ、オレは都合があるんで、この辺で!」
そう言うと、少年は別の方向に歩いていった。
・・・結局、この日は何も起こらず、俺達はそのまま霜月堂に帰った。このまま何も起こらずに帰れたら一番なんだけどな。
<その9に続く>