その7

<その7>


夕方、霜月堂に帰った俺達。
全員でのんびりテレビを見ていた、その瞬間だった。

霜月さんがふと目を北川部長の方に移した時、ある事に気づいたのだ。
【霜月】「これは・・・まさか・・・!?」

【俺】「え?何があったんですか?」
今度は何だ?異世界に来てトンデモバトルまで見せられた俺、もう何があっても驚かねぇぞ。・・・多分。

すると霜月さんは、北川部長のところへ寄り、部長がいつもつけている虹色のネックレスを手に取った。
【北川】「!?」
【霜月】「このネックレス・・・あなた、もしかして・・・」

オシャレなんかにはあまり興味がない感じの北川部長だが、月島先輩によればあのネックレスはいつもつけているらしい。
俺は別に気にもしなかったが(というか言われるまで気づかなかったが)、あれがどうかしたのか?

北川部長は、何も言わず、コクリと頷いただけ。
すると霜月さんは、こちらに向き直って、話し出した。

一応、今日の買い物の間とかも、普段の北川部長の暴走っぷりとこっちに来てからの変貌っぷりは霜月さんに話している。

【霜月】「2人とも、よく聞いて。
     彼女、北川佑香は・・・元々こっち・・・週チャオ世界の人間よ。」


・・・へ?今、何と?


俺も月島先輩も、その意味を理解するのに数分かかった。2人で何回も聞きなおしたぐらいだ。文章にすると冗長になるのでカットするが。
さっき、「もう何があっても驚かねぇ」って言ったが、前言撤回。座ってるからいいものを、立ってたら腰抜けてたぞ。

【霜月】「このネックレスに使われている虹色の宝石・・・『虻石』[ぼうせき]は、こちらの世界にしかないものよ。」
【月島】「それで、そのネックレスが・・・」
いかにも100円ショップにありそうなもんだが、あっちの現在の技術じゃ作れないらしい。

【俺】「ちょ、ちょっと待てよ!ソニックアドベンチャーが発売されたのが1998年。それ以前にこの世界が存在するはずがねぇだろ?
    でも北川部長は1988年生まれの高校3年生だ。んで、あっちの世界には部長の幼稚園からの幼馴染がいる。
    ・・・どう考えてもおかしくねぇか?」
【霜月】「いいえ、それは違うわ。1998年までの間も、この世界は存在した。・・・ただ、あっちの世界からは認識されていなかっただけ。
     あたしは詳しくは知らないけど、この世界には「3000年前の古代文明」があるでしょ?」
確かに。そういえば、パーフェクトカオスに滅ぼされたんだっけ。

【霜月】「そして、幼稚園からの幼馴染については・・・ちょっと詳しく説明する必要がありそうね。」

すると、霜月さんはゆっくり話し出した。
【霜月】「この世界は、確かにあちらの世界とは別世界だけど、微妙に繋がっているのよ。
     例えば、名前や顔、性格が全く同じ人がいたりする。もちろん、別人だけどね。」
【月島】「あ、私が昔読んだファンタジー小説に、そんな設定のお話があったかも・・・
     同じ人間が、ある世界では独裁者で、別のある世界じゃホームレスだったり・・・」
【霜月】「そう、なら話は早いわね。」

【俺】「それじゃ、ひょっとして、ソニアド発売までの北川部長と、今の北川部長は・・・別人!?」

すると、次元移動以来ほとんど黙っていた北川部長が、ゆっくり口を開いた。
【北川】「ええ、そうよ・・・小5の冬、あたしは次元移動であっちの世界に来た・・・」

なるほど。そうすると全ての話に合点がいく。
北川部長が小5の時に突然チャオがチャオが、と騒ぎだしたのも、元々こっちの世界でチャオが好きだったから、と考えれば納得できる。
こっちに来てから黙ってしまったのも、何となくだが理解できる。

【霜月】「そして、これはあたしの想像だけど・・・恐らく、その小5の時の次元移動で、北川佑香は入れ替わった・・・
     つまり、昨日の次元移動で入れ替わっていなければ、もう1人の北川佑香が、この街にいるはずよ。」
ちなみに、入れ替わる確率はそんなに高くないそうだ。

その後、北川部長は、珍しく、静かに話を始めた。
【北川】「最初にあっちに来た時は、どうすればいいのか分からなかった・・・
     けど、来た場所が『北川佑香の部屋』だったから、何とか誤魔化して生きることができた。」
【俺】「・・・・・」
【北川】「でも、一番ショックだったのが、「この世界にチャオがいない」って気づいた時。
     あたし、小さい頃からチャオが大好きだったから・・・」
それはあなたの言動を見ていれば誰でも分かります。はい。

【北川】「最初はそれを受け入れることができなくて、必死に探したわ。・・・そして、やっと見つけた。」
【月島】「だけどそれは、ゲームの中の存在・・・」
【北川】「ええ。そして、あたしがゲームの中の、名も無き人間だって知った・・・」

・・・「誰にでも心に闇を持ってる」ってよく言うけど、まさかこの人に限ってそんな訳が、と思ってた。
デカすぎる・・・デカすぎるっての・・・俺のなんかより、よっぽど・・・
んで周囲の人間全員に対し誤魔化して今まで7年間生き続けたんだろ?・・・有り得ねぇよ・・・


結局、この日は暗い雰囲気のまま、夕食を食べて寝た。

<その8へ続く>

このページについて
掲載号
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号
ページ番号
8 / 12
この作品について
タイトル
聖誕祭記念特別読み切り「チャオ同好会Forever(フォーエバー)」
作者
ホップスター
初回掲載
週刊チャオ第249号&チャオ生誕8周年記念号