後編 ページ1
でも、やっぱりおどろいちゃった。
7さいのたんじょうびから半年くらいたった日のことなんだけど、朝起きてみると、アオの体が白いなにかにくるまれていたんだ。ぼくはびっくりしてお父さんにこのことを教えたんだ。
そしたらお父さんは、これは「しんか」なんだよって教えてくれた。
しんかっていうのは、こどもからおとなになるってこと。ぼくが8さいになるまえにもうおとなになっちゃうなんてずるい、って少し思った。
でも、チャオのしんかは、とてもいいことなんだよ。こんなにはやくおとなになるのは、君がアオととてもなかよしだからだね、ってお父さんが言ったから、ぼくはうれしかった。
アオがまゆ(あの白いやつの名前だよ)に入ってから出てくるのには少し時間がかかるみたいで、その間は少しさみしかったけど、アオがおとなになるためなんだからってがまんしたよ。
二日くらい、たったかな。
これまた朝なんだけど、ようすをうかがっていると、まゆがうすくなっていたんだ。
ぼくはじっと、アオが出てくるのを待った。ちょっとずつうすくなるまゆを見つめていると、アオのすがたがちょっとずつ見えてくるんだ。ぼくはどきどきしながら、そのようすを見ていて、そして、
アオが、まゆから出てきた。
アオは、からだが少し大きくなったみたいで、ずっと前にきゃぷちゃした、こねこのしっぽも大きくなって、おとなのねこのしっぽみたい。
ちょっとかっこよくなったかな。
からだが大きくなっただけじゃあなくて、アオは他にもいろいろ「しんか」したみたい。足もはやくなったし、ちょっとだけなら空もとべるんだよ。ともくんのオウムをだっこしているからね。
その、ともくんが、今日チャオをつれてきたよ。この前アオを見て、ほしくなったんだって。
ほしい?
まだうまれてそんなにたってなくて、だからもちろんこどものチャオなんだけど、ともくんちにいるオウムといっぱいあそんだみたいで、おおきなはねがかっこいいんだ。
その、フェニックス(ていう名前なんだって。かっこいい!)と、アオをしょうぶさせようって、ともくんが言ったんだ。「チャオレース」って言って、とてもゆうめいなスポーツなんだって。
でも、フェニックスはこどもで、アオはおとななんだから、しょうぶにはならないんじゃないかなって思ったんだけど、ともくんがどうしてもっていうから、レースをやることにしたんだ。
そして、ぼくたちは、公園の広場で、レースをした。
フェニックスは空をとんで、最初はちょっとアオの前を行っていたけど、まんなかくらいまでいったとこでつかれちゃったみたいで、そこをアオがおいぬいて、アオが勝った。
やっぱり、フェニックスはこどもだからしょうがないねって、ぼくは思ったんだけど、ともくんはなぜか、フェニックスをおこった。ぼくはびっくりして、でもいけないと思って、ともくんを止めようとして、そこでともくんが、言ったんだ、
うるさい!こんなレースにも勝てないチャオなんていらないよ!
ぼくは、そしてフェニックスもアオも、とてもびっくりして、
――でも、そんなのちがう!
ぼくはともくんに言った。今度はともくんがびっくりして、でもそんなのはかんけいなくて、とにかくぼくは言った。
フェニックスはともくんの友達じゃないの!?そんなの、そんなのちがう!
ぼくは泣いた。かなしくて、すこしくやしかったから。
ともくんは、ぼくを見て、そしてフェニックスを見た。フェニックスは、おおきな羽をひろげて、とんだ。そのままともくんの顔の前で止まって、フェニックスは、口をにやりとひらいてギザギザの歯を見せた。
そしたら、今度はともくんが、泣いちゃったんだ。
あれから数日たったけど、ともくんとフェニックスはとてもなかよしになったよ。
フェニックスはアオともともだちになったし、アオもよろこんでる。もちろんぼくもうれしい。みんなともだちだから。ともだちがうれしいことは、ぼくもうれしいんだ。
レースも時々やるけど、勝ち負けなんかはかんけいなくて、とにかくアオとフェニックスがいっしょうけんめい走ってるのを見てると、ぼくもともくんも楽しくなるんだ。
お父さんはそれがスポーツなんだ、とか言ってた。
楽しい時は、あっという間にすぎるんだって、先生かだれかが言っていたような気がする。
今日もまた、フェニックスといっしょにあそんでいたアオなんだけど、ちょっとようすがおかしいんだ。
ともくんに聞いたら、いつもどおりじゃない?って言ってたけど、やっぱりへん。
元気がないっていうか、おちこんでるっていうか。
家に帰ってアオに聞いてみたけど、頭に「?」を浮かべるだけで、いつもと変わらないアオに見えた、けど…。
寝る前に、アオがぼくに何かを言おうとしていた気がする。いや、今思うと、きっとあれは――