【8】

あの日から一週間。
朝から何か言葉では表現できない不思議な感情が俺の中にあった。
何かやるべきことがある。
そう教えているような気がするのだが、それが何かわからないまま指定された場所に行かなくてはいけない時間になった。
ホワイトは既に指定された場所へと向かっている。
この建物から出る際、おそらく酒が入っていると思われるびんをしっかりと持っていた。
街が爆破される光景を見ながら飲むのかどうかは知らないが、
彼なりの考えがあるのかもしれない。
といっても、酒で何かできるとは思えないのであるのだが。

俺には持って行く物が事前に渡された携帯電話とカオスドライブ以外にないので、
とりあえず余分にカオスドライブを持って行くことにした。
備えあれば憂いなしと言う言葉もあるくらいだ。損ではないだろう。
建物から出る直前に関が声をかけに来た。
だが、なんと声をかければいいのかわからないらしい。
仕方が無く、俺が何かを言うことにした。

「俺はこの街が爆破される直前に逃げる。あんたも無理しないで逃げろ」
俺はそう言って、建物から出た。

既に街の一部では戦いが起こっていた。
うまく戦いに巻き込まれないようにして、指定された場所にたどり着いた。
俺は腕時計で今の時間を確認する。
22時。街が爆破されるのは2時。
つまり、4時間後だ。


結局、逃げてくるチャオは0匹のままもうすぐ1時になる。
あと1時間。
そう考えていたら、突然携帯電話が鳴り出した。
ホワイトからだ。

「どうした?」
「突然すまんな。そっちにはチャオが来たか?」
「全く来ないさ。そっちには来たのか?」
「俺の方はわからん。もう指定された場所にはいないからな」
「え、じゃあもう逃げたのか?」
俺がそう訊くと、ホワイトはそれを否定してからしばらく黙る。
しばらくして彼は「よし」と何かを決心したような声を発し、話し出した。

「俺さ、考えたんだ。
自分はこの街のために何かできないかな、ってさ。
でさ、俺はたった一人でもいいから誰かを救いたいと思ったわけさ。
きっと死にたいやつなんていないと思うからさ。
そういうわけで、研究所のやつらの脱出ルートを確保しようと思ったんだが、駄目だった。
一撃でやられちまったよ。
っつうわけで、遺言ってやつをお前に言いに電話をかけた。
えーっとな。生きろ。生きてればいつかは良い事が起きるからよ。それから……」
ホワイトはそれから何も言わない。
俺は不安になり、ただ大丈夫か、どうした。などと言い続けた。
しばらくして、ホワイトは再び話し出す。

「おかしいな…。せっかく色々と考えたのに、忘れちまったよ。
視界もぼやけてきた…。
死ぬんだよな、俺。
なんか、怖いな。死ぬって、どんなことなんだろうな。
ハハ…小さい頃からそう考えては怖くて考えるのをやめようとしたっけな。
もうすぐ確認できるんだけど…なんか怖いな。
酒…どこにあるっけな。わかんねぇ…。
取ってくれ……って電話だったか。
死にたくねぇ…。なんでこんなことになっちまったんだろうな。
もっと、楽しく過ごせると思っていたのに……」
そこから、ホワイトは喋らなくなった。
俺はしばらく待ってから電話を切ると、研究所にいる関に電話をかける。
関が電話に出た瞬間に俺は怒鳴った。

「この街を爆破する爆弾はどんな仕組みで、どこにある!!」
「え…?」
「ぼけっとしてないで早く言え!!時間が無いだろうが!!」
「あ、は、はい。
えーっと、ドーム内の小動物達をキャプチャーして得たエネルギーで大爆発を起こす仕組みの爆弾が1つ。
それがこの街を爆破します!」
「よし、わかった!」
俺はそう言って電話を切る。
随分面白い物を作ってくれたようである。
そういう仕組みならば小動物も消せてなお良し、というわけか。

俺はドームに向かって走り出した。


俺はこの街を救う。
そして、進化してしまったチャオ達は俺が倒す。
この選択が正しいのか正しくないのか、できるのかできないのか。
そんなことはわからない。
だが、「未来がない」ということよりも「未来がある」ということの方が絶対いい。
この街やこの街に住む生命。それだけじゃない、
全ての生命にとって。

そのことだけはきっと正しいと思うから。

このページについて
掲載号
週刊チャオ 聖誕祭記念号
ページ番号
8 / 11
この作品について
タイトル
「Beam of Hope」
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ 聖誕祭記念号