【7】
やがて外は真っ暗になり、
さきほどまで大勢いた野次馬はもう何も起きないとわかったために
俺達に何故自分のチャオを殺したかと問いつめようとしていた
飼い主達もいくら訊いても無駄だと思って家に帰ったようである。俺達はベンチに座っていた。
「どうして、チャオは進化しちまったんだろうなぁ」
俺は夜空を見上げて呟く。
果たして月や星は微少ながらでも照らしているのだろうか。
もうすぐ終わってしまうこの街を。
「きっと、俺達人間のせいなんだ」
ホワイトは俺が呟いてから数分後に呟くようにして答えた。
彼は前を見ていた。さっき俺達が戦った場所を。
そこにチャオはいない。
さきほど俺達が殺したチャオ達の亡霊はいるのだろうか。
もしいたら、そいつらはどんな表情で俺達を見ているのだろうか。
「チャオカラテだ、チャオレースだ。とか言ってさ。
チャオを強くしてよ、戦わせるんだ。
きっと、チャオはそんなこと望んでないんだ。
ただよ、みんなで遊んだり、歌ったりお絵かきしたり、踊ったりしてさ。
で、遊び疲れて腹が減ったから飯食ったり、眠くなったから寝たりしてよ。
そういうさ、なんでもないんだけど、でも楽しい。
そんな日々を過ごしていきたいんだ。
なのによ、繁殖していいアビリティのチャオが生まれたら、もう用無しだ。
って言われて捨てられたり、一生懸命頑張っても、負けたら怒られてさ。
勝ってもよ、相手のチャオは泣いててさ。
きっと、どっちかが泣くなんてことはなかったのによ、みんなもっと楽しく、笑って暮らせたはずなのにさ。
俺達が、壊しちまったんだ。何もかも。
きっとさ、こいつらも戦いたくなんかなかったんだ。誰も殺したくなんかなかったんだ。
でも、そうしないと生きられなくて、そういうふうに俺達がしちまって……」
ホワイトはそこから何も言わない。
俺は立ち上がってホワイトに先に帰ると告げ、公園から出て行った。
オウルもそうだったのだろうか。
強制的に戦わされる日々が嫌になって、自由を求めて逃げ出したのだろうか。
それに気付かなかった俺が悪いのだろう。
だが、その意志を伝える機会はもう永遠に来ない。
それから四日が経った。
先日の騒ぎが新聞の一面記事になったことによって
外出を禁じられた俺とホワイトはただでさえないやる事が全くなかった。
俺はホワイトに何もやる事がない今のうちに飛べるようになっておくといい
というアドバイスにより飛ぶ練習をしていたのだが、
次第に羽を動かせるようになり、それからからすぐに飛べるようになってしまった。
「寝れねぇ…」
こういう暇な時、俺は「寝る」という手段を愛用していたのだが、残念ながらその手段は既に使いすぎていたために寝ようとしても眠れない。
今日も朝からずっと寝ていたのだから仕方がない。
それに、三日後の深夜には俺とホワイトには役目がある。
それは爆破される範囲からチャオが出ないようにするというもので、
それを可能にするために脱出経路が二つしか残らないように上手く爆破する範囲を調整したそうである。
とにかく、そういうことなので今から夜に活動することができるようにしておいた方がいいだろう。
俺はとりあえずエレベーターで屋上に上がる。
ここに来ることは禁止されていない。
外の空気が味わえるのはここだけなのである。
「よお、来ていたのか」
「まぁ、暇だからな」
屋上にはホワイトがいた。
ホワイトは酒を飲みながら夜景を見ている。
夜景と行っても、多くの家の電気が消えているために
楽しめる要素がほとんどない景色であったのだが。
「なぁ、お前が俺に声を掛けた理由ってなんだ?」
「偶然さ。俺が偶然俺一人じゃあ足りないと思っていた時に
偶然天才なチャオの飼い主として雑誌に載ったことのあるお前を見つけたんだ」
ホワイトはそう言うと、エレベーターの方へ歩いていく。
ホワイトはボタンを押そうとしたが、何かを思い出したかのようにこちらを向いた。
「もしかしたらお前はこの偶然が起きない方がよかったと思っているかもしれない。
でもな、4日前お前がいなかったら山ほどいるチャオ達の一斉攻撃で俺は死んでいただろうよ」
そう言うと、ホワイトはエレベーターのスイッチを押してエレベーターに乗る。
そして、ドアが閉まる前にホワイトは微笑みながら言った。
「たとえ偶然によって運命がどんなに変えられたとしても、
お前のした行動は全て偶然なんかじゃないだぜ。
今までも、これからもな」