【5】

俺は、何も言えなくなった。
俺の頭からは質問どころか感動詞一つ出てこないで、今聞いた話が何度も繰り返されていた。
しばらく俺達三人は黙ったままだった。
長い沈黙の世界から最初に脱出したのはホワイトだった。
彼は突然立ち上がり、両手で机をバン、と叩いてから元気よく言葉を放った。

「さて、お前もとっととチャオの体になれるようにしないとな!所長、今すぐ訓練を始めようぜ!」
俺と関も彼の勢いについていくような形で沈黙の世界から脱出した。
俺はその後、広く、大きい部屋に移動した。
天井に近い所にガラスがついており、そこから関と少年が俺の様子を覗いていた。

俺がカオスドライブをキャプチャーできるようになったのは、
訓練を開始してから一時間ほど経った頃だった。
俺は右手で持った緑色のカオスドライブを見つめ、精神を集中させる。
さぁ、こい。俺の力となれ。
そう強く念じた瞬間、カオスドライブは光を放った。やっとキャプチャーできた。
そう思った瞬間、心臓が急に大きく拍動し始めた。
俺の体に何かが起こっている。
それを激しい拍動による苦しみと痛みに耐えながら僅かに感じ、俺はその変化を確認しようとした。
だが、それを確認する前に俺の意識は途絶えた。


「お、起きたか」
目覚めると、そこは今朝起きた場所と同じ所に俺はいた。
関がベッドの近くに立っていること以外は今朝と全く変わらない。

「おめでとう。チャオの体への変化は無事成功したぜ」
「あ、あぁ」
まだ意識がはっきりとしない。さきほど起こったことをぼんやりと思い出す。
拍動は通常通りに戻っている。

「まぁ、あんな苦しいのは最初だけさ。もう大丈夫だ。
…って言っても、心臓が大きく拍動するぞ。それが起こるとチャオに体が近づく」
「苦しいしチャオに近づくし、色々と辛いな。
お前の言った通りだ。ヒーローみたいにいいもんじゃねぇな」
俺がそう言うと、ホワイトは「そうとも限らないぜ」と言った。
いいもんじゃないと言ったのはそっちではないか。
何度もそれが起こればやがてチャオになれて気楽に過ごせるからいいじゃないか。
とでも言うつもりなのだろうか。

「それが起きるとキャプチャー能力が進化するんだ。
ゲームでいうレベルアップみたいな感じだ。
そう思えばいいんじゃねぇかな。プラス思考でさ。
どうせあと一週間で終わりなんだからよ」
と、ホワイトが笑いながら言う。
体がチャオに近づくというのに、レベルアップだとかそんな気楽に受け止めていいものなのだろうか。
まぁ、確かに「どうせあと一週間で終わり」ということを考えると、
チャオの体に近づくことより戦闘能力が上がることの方が重要なのかもしれないが。

その後、またさきほどの部屋でカオスドライブをキャプチャーした。
今回は拍動が大きくならず、チャオとなった自分の姿を見ることができた。
チャオとなった俺の身体能力は俺の予想をはるかに超えた上昇を見せた。
人間の時の俺よりも明らかに強い。パワーもスピードも。
さらにキャプチャーしたカオスドライブの色に対応している能力はさらに上昇するようである。
だが、欠点が一つあり、
しばらく時間が経ったり大きな痛みを感じると強制的に人間の体に戻ってしまうのだ。
関はそのうちそこらへんの制御もできるようになると言っていた。

「ふむ。ピュアチャオでニュートラル。
キャプチャーしたカオスドライブによってタイプが変わる。
面白いじゃないか。俺なんてどれをキャプチャーしたって武器が変わるだけで姿は白いダークカオスだ」
「こっちには武器がないけどな」
「だが身体能力はお前の方が上だ。
…あ、そうそう。外出OKだってよ。残り一週間、楽しんでこい」
「じゃあそうさせてもらうよ」
俺はエレベーターで1階へ行き、エレベーターから直線で10mほど先にある自動ドアから外へ出る。
外へ出てすぐ見えたのはドームだった。
別に「街からは出てない」と言うほどの所ではない。
といっても、場所や建物の名前を言われたりしても俺はどんな建物か把握できなかったであろう。
ドームの周辺を歩いてみると、出入り口にたくさんのトラックが駐車してあり、
大きなコンテナがドームの中へと運び出されていた。
おそらくあの中に多くの小動物が入っているのだろう。

このページについて
掲載号
週刊チャオ 聖誕祭記念号
ページ番号
5 / 11
この作品について
タイトル
「Beam of Hope」
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ 聖誕祭記念号