【4】

「チャオの姿になればなるほど元の体もチャオに近づいていく。
チャオに侵食されている。とでも言おうか。
俺がチャオに侵食されてから一ヶ月、
人間としての俺はチャオとしての俺に消されつつある。外見も、中身もな。
一ヶ月前は俺はお前よりおっさんだったんだぜ」
手や髪の色が白いのもその影響だと少年は付け足した。
やがて完全にチャオとなるのだろうか。俺も、こいつも。
どういう仕組みでそういう現象が起きるかどうかなんて興味はない。
知ろうとしたって俺の頭では無理だろうし
知ったとしても俺は何も出来ずにチャオになるのを待つのみなのである。
俺が訊きたいことは一つ。
「どうして俺をそんな体にした?」
その質問が俺の口から言葉となって出るより先に少年の口から別の言葉が飛び出した。

「ま、どうせあと一週間で終わりなんだ」
「ちょっ、ホワイト…」
「…どういうことだ?何が終わるんだ?」
ホワイトというおそらく偽の名前、もしくは愛称で呼ばれた少年は
今の発言をしたことを後悔しているようだ。
しまった、と本当にそう顔に書いてあるかのようにわかりやすい表情の変化であった。
そして俺は言う予定だった質問とは別の質問をとっさにした。
うつむいているホワイトの代わりに関が慌てた様子で答える。

「えっと、なんでもないの。聞かなかったことにしてくれないかしら」
「なんでもないなら教えてくれ。一体何が終わるんだ?」
俺が言うと、関も黙ってしまった。
二人の様子を見ればわかる。一週間後に何かが起こる。
そして、その何かはきっと俺達に絶望をもたらすということが。
俺は勢いで問いつめた。

「……。スマン、言うしかないようだ」
「そうね。言わない予定だったんだけど…」
そして俺はその後、何も言えなくなった。
俺が知った一週間後に起きることが持ってくるのは俺の想像をはるかに超えた絶望…
いや、絶望なんてものでもない。
やってくるのは、「終わり」だった。


チャオは進化するらしい。水色のマユに入ってするのとは違う。
チャオが生まれつき持っている特殊な能力、キャプチャー能力。
チャオはその能力を進化させることによって
普段見ているチャオからは想像できないほどの力を手に入れるらしい。
その進化によってチャオ達は俺が昨夜見たあのチャオ達のように、
小動物をキャプチャーすることで人間を上回る運動能力を手に入れ、
小動物パーツも戦闘用に発達させられるようになったらしい。
過去にもその進化をチャオ達はしたことがあるようで、その事を証明する物も数多くあるそうだ。
そして、それらからキャプチャー能力の進化は
チャオがどうしても生き残るために戦わなくてはいけないと判断した時に起こる、
という仮説も立てられているそうだ。

俺達が住んでいる平和なこの国で進化する理由はない。そう思われていた。
だが、チャオは進化していた。
俺達が気付かないだけで、徐々に、そして確実にその変化は起きていた。
人間がその変化に気付いた時には既に手遅れだった。
チャオのキャプチャー能力はさらに進化し、
自分が倒したチャオがキャプチャーしていた小動物も吸収できるようになってしまったという。
そしてまだキャプチャー能力が進化していないチャオも
襲われることにより自分の命を守るためにキャプチャー能力が進化する、ということが起こっているそうだ。
そして、そのようにして強く、多くなったチャオ達を全て倒すのは不可能になった。
というのも、ホワイトや俺のような進化したチャオ達と戦える者がいくら倒しても
進化するチャオの増加するスピードには追いつけず、
さらに小動物をキャプチャーした量が多すぎて俺達では倒せなくなってしまっているチャオすらいるそうだ。
勿論そのチャオ達の戦いに巻き込まれれば人間や建物も被害に遭う。
それを防ぐためにある計画が始動した。
それは、最善手と判断されたわりにはあまりにも残酷な手だった。

一週間後、この街が爆破される。
進化したチャオは小動物を求めてさまようという習性を利用して
国中の小動物をこの街の一番大きい建物、チャオの試合などを行うドームに集めてチャオをおびき寄せ、
進化したチャオが全員集まると思われる今から一週間後にこの街を爆破するというのだ。
このまま何もしないでチャオの好きにさせるよりかは
街を一つ失ってでも全滅させるべきだとお偉いさんは考えたそうだ。

このページについて
掲載号
週刊チャオ 聖誕祭記念号
ページ番号
4 / 11
この作品について
タイトル
「Beam of Hope」
作者
スマッシュ
初回掲載
週刊チャオ 聖誕祭記念号