【3】
「おはよう。乱橋君」
目覚めると俺はベッドに寝かされていた。
部屋には窓がなく、置いてある物は俺が寝ているベッドと少年が座っている椅子だけである。
それにしても、いつ寝てしまったのだろう。
なんとなく、首が痛い。
もしかしたらこの少年が俺を気絶させ、車か何かでここまで運んだのかもしれない。
まるで、というよりまさに誘拐である。
「ここはどこだ?」
「街からは出ていないよ」
期待はずれの答えだったが、問いつめてもあまり意味はないだろう。
思いついた質問は特にないのでとりあえず、昨夜彼が言っていた「話」とやらを聞くことにする。
だが、向こうも俺の質問待ちのようで何も喋ってこない。
仕方がないのでこちらから訊く事にする。
「で、話ってなんなんだ?」
「あ、はいはいはいはい。じゃあ、場所を移そう。話があるのは俺じゃないから」
と、少年は立ち上がりドアを開いて廊下へ出る。
俺はとりあえず彼についていく。廊下を歩き、エレベーターで移動する。
どうやらここは地下1階らしい。そして俺達はさらに下の地下2階へと降りた。
エレベーターを出てすぐ大きな部屋が現れた。
部屋の奥には大きなモニターがあり、まるでどこかの研究所のようである。
いや、きっと研究所なのだろう。
人は俺と少年を含めて七人で、
俺と少年以外の元からここにいた人間は全員コンピューターの画面と睨めっこしている。
そのうちの一人の眼鏡をかけた女性がコンピューターから離れてこちらへ来る。
見た目は20代前半くらいで俺の人を見る目がおかしくなければ美人である。
「初めまして、君が乱橋さんね。私は関(せき)。一応ここの所長です」
「で、話ってなんなんだ?」
俺はさきほど少年にした質問を一字一句変えずにする。
すると、少年は立ち話もあれだから移動しようと言ってきた。
再び地下1階に上がり、エレベーターのドアが開くと同時に少年は走って廊下にある自動販売機の前に行った。
どうやら立ち話がどうのこうのというのはどうでもよく、ただ飲み物が欲しかっただけのようだ。
俺も缶コーヒーを買い、さきほどの個室とは違ったまるで会議室のような部屋に入った。
部屋の中心には細長いテーブルが置かれており、椅子が隙間無くびっしりと置かれている。
関はホワイトボードが置かれている奥の方へと行き、
俺と少年はテーブルの真ん中ぐらいの場所で向き合う形となった。
関の話は俺が本日三度目となる「で、話ってなんなんだ?」という台詞を放つ前に始まった。
「どこから話しましょうか。…そうね、まず乱橋さん。あなたはチャオになりました」
「冗談はよしてくれ。俺のどこがチャオなんだ」
「えっと、ごめんなさい。実は昨夜あなたが寝ている間に色々としたの。
詳しく話してもしょうがないから簡単にわかりやすく言うと、
あなたはカオスドライブをキャプチャーして一時的にその体をチャオに変えられるようになったの」
「つまり、それはどっかの特撮ヒーローみたいなのに俺がなったというわけか」
「まぁ、そんな感じだと思ってよいわ」
俺は少年の方を見る。
彼もまたそのヒーローとやらなのだろうか。
昨夜のあの戦いのような事を俺もすることになるのか。
全く実感がわかない。
まぁ、実際にまだチャオの姿になっていないわけだし仕方がないか。
「ヒーロー…か。そんないいものじゃねぇぜ」
少年はため息混じりに言った。
俺がどういうことだ?と訊いてみると少年は手袋をはずし、左手を俺に見せた。
少年の左手は骨かと思うくらい真っ白だった。少年はその左手で自分の白い髪の毛を触りながら話し始めた。