「1章・始まりの時」
某日。
某街。
ある二人の若い男女が街を歩いていた。
風に流れているように髪の毛を後ろに立てた背の高い男と、
セミロングヘアーの可愛いながらもどこか哀愁を漂わせた小柄な女だ。
男は女にそっと話しかける。
それはこれまで彼らがいた街で毎度のごとく言っていた言葉。
―今度こそばれないようにさ、・・・ここで暮らしていこう。
―・・・うん、分かってる。・・・!
その時、
女の方が今にもトラックにひかれそうな子供を見つけた。
子供は恐怖でどうやら動けなくなっているらしかった。
彼女は戸惑いもせずにすぐに叫んだ。
―C・guard!
その瞬間、少年の間に青い光の囲いができて、
トラックはそれごと少年を吹き飛ばした。
しかし、少年はとばされた後、何事もなく立ち上がった。
誰もがその光景に驚いた。
そして、二人を一斉に睨んだ。
それを見た契弥は苦笑いをしていった。
―あ~瀬那。ダメじゃん。「能力」出しちゃあ。
はは、でも、そういう優しい所は変わって無いんだよな。
―・・・ごめん、契弥。
せっかく今度は上手く行けるって言ってたのに・・・。
泣き出しそうな瀬那に、契弥は誰に言う訳でもなくつぶやいた。
―泣かなくて良いさ。
又どこかにある。いつか・・・きっと・・・俺たちを認めてくれる所が、さ。
ふう・・・C・teleport!
男がそう叫ぶと、あっという間に二人の姿はかき消えた。
だだっ広い道で二人くらい人間が消えてもかわりはしない。
ブーイングをとばしていた人たちも、
やがて、「くそっ」とか言いながら、それぞれ歩き出した。
誰も、まだ彼らの未来を知ることはない。
『バクチク』 一章・時の始まり。
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