2(終)
何か運んできたに違いない、この春一番は。
僕はそう感じた。
その時、かわいらしい女の子が、男の子に近づいた。
―また、たくちゃん此処にいるの?
―うん。お父さんとお母さん、どっちも働いているんだ。
―知ってるよ。わたしも同じなんだから。
その女の子はまた、僕にとって見覚えがあった。
そして、その女の子が天気チャオをいつも持っていたことを。
―ねぇ、たくちゃん。このお兄さん誰?
―エリートさんだよ。
―へぇ、エリートさんねぇ。
違うと否定したかったか、今更無駄か・・・と思い、
何も言わないことにした。
―たくちゃんってお天気予報士さんになるんだって?
―うん、同じだね。
―あ、お母さんが帰ってきた。じゃあね、ばいばい。
―じゃあね、美奈ちゃん、じゃなくてみーちゃん。
僕はその女の子が帰った後、また男の子に聞いた。
―あの子も天気予報士になりたいのか?
―うん、でもあの子はお父さんが賛成しているから。
―おまえは賛成してくれないのか?
―うん・・・。
―お父さんに言ってやれよ。なりたいって。
僕は心の底からそういった。
此処まで来たら、僕と同じ運命になることだろう。
エリートと言われるだけのただの歯車。
僕はそれは望んでいなかった。
いま、目の前の男の子も望んでいないに違いない。
僕は続けていった。
―お父さんに何度も言えよ。反対されたらお母さんに言えよ。
諦めるな。粘れ。粘れ。僕みたいになるな。絶対。
―・・・うん、エリートさんありがとう。僕がんばる。
そういうと、男の子は走り去っていった。
僕は、それを見届けると、家路へ戻った。
誰もいない、電気のついていない自分のの家へ・・・あれ?
電気がついている。おかしいな。
僕はドアを開く。すると、中から男の子と女性が出てきた。
―あ、お父さんだ、ただいま!
―たくちゃん、おかえり。
―え?一体誰なんだ?
―何言っているのよ。そんなに疲れているんだ。お疲れ様。
あ、そうだ。天気知っているでしょ?明日は晴れだよね?
もう、何がなんだか分からない。
なんで、天気を僕が知っているんだ?
そもそも、この二人は何者なんだ?
僕は、ふと「思い出」とかいたアルバムを見つけた。
そこには天気予報士になって入社したときの写真。
そして、此処にいる女性との結婚式での写真。
極めつけはそこにいる子どもの赤ちゃんの時の写真。
・・・まさか、僕は人生が変わってしまったのか?
・・・成る程、あの男の子は自分自身だったんだ。
そうか、だから、あの友達やあの女の子を見たことがあったんだ。
と言うことは僕は天気予報士・・・なのか?
そして、この女性は・・・みーちゃん?
―で、明日は晴れなの?
僕はふと、ソファーに座っている天気チャオを見る。
そのチャオはからだが赤色で頭が白色だった。
―明日は曇りになった後晴れるよ。
なぜか、僕はそのようなことを全部知っていた。
―じゃあ、明日はみんなで出かける。休みとって。
―やったー!行く行く!
なるほど、あの時から僕の人生は転換したのか。
でも、なんで、そんなことが・・・。
・・・いや、詮索はしないでおこう。
これは、あなざどりーむが運命を変えたんだ。それで良い。
ある日。僕は僕の子ども(翔というらしい)と河原沿いを、
歩きながら話していた。
すると、一緒に来ていた天気チャオの頭だけ赤くなった。
―翔、春一番が来るぞ、もうすぐ春だな。
―はるいちばんってなに?
―今に来るさ。
その瞬間、冷たくて強い風が二人の間を吹き抜けていった。
終わり。