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大手企業の歯車の一部である、単なるエリート、
つまり「僕」が見た景色は夢じゃなかった。
ぶらんこが揺れていて、
そこにちょこんと小さい男の子が座っていた。
どうやら、友達とはもう別れたらしい。
僕は何となく、その男の子に話しかけてみた。
―君は誰?
―知らない。でも僕はたくちゃんって言われてる。
夕方の暖かい風がふと吹いた。
その瞬間、雨がどっとふって来た。
あぁ、そうだった。暖かい風が吹くと雨が降るんだ。
餓鬼の頃はこんなことくらい知っていたのに。
そうして、上を見上げるのを止めて、男の子の方に・・・あれ?
いつの間にか、木の下に移動していた。
―夕方に暖かい風が吹くと夕立が来るんだよ。
―あぁ、僕も小さい頃は知っていたのになぁ・・・。
―貴方は誰なんですか?
―あぁ、僕はただの夢追いエリートだよ。
―夢追い?なんか夢でもあるんですか?
―・・・君は小さいのによく敬語が使えるな。
―はい、お父さんにいつも言われてますから。
―へぇ、僕も昔は父親が厳しかったなぁ。
僕は、その後、男の子と別れて公園を出た。
男の子は暫くブランコに座っていたが、
やがて、明かりがつき始めた住宅街に吸い込まれていった。
次の日の夕方は穏やかな雨が降っていた。
そして、その日も男の子は公園にいた。
ちょうど、友達と別れるところだった。
―あ、エリートさんだ!
―え?エリートって凄い人なんだよなぁたくちゃん!
―へぇ、お兄さんエリートなんだ。すげぇなぁ。
僕はどうやらエリートで定着したらしい。
男の子の友達までエリートといって僕を称える。
しかし、なんか僕はこの友達らを見たことがあったような。
・・・記憶違いか?
すると、男の子が持っていた青いチャオが赤色になった。
―お、天気チャオじゃないか。良い物もっているな。
―はい。お母さんに買ってもらいました。
―将来は天気予報士か?
―いや、将来は××株式会社に行けと。
―・・・僕と同じだな。おまえは嬉しいか?
すると、男の子はぽつりと漏らした。
よく聞こえてはいなかったが、多分、嫌なんだろう。
僕は、話を転換した。
―それにしても、チャオが赤くなった時は確か・・・?
―暖かくなるんですよエリートさん。
―あ、そうだった。う~ん、昔のあだ名は天気博士だったのに。
―それって、僕と同じですね!
僕は、話をすればするほど、この男の子と僕が共通する。
すると、チャオの頭だけが青くなり始めた。
僕は、この変化に見覚えがあった。
―あれ、こんな変化しなかったはずなのに・・・。
―これはな、春一番が来ることをいっているんだ。
その瞬間、寒く強い風がびゅうと吹いた。
―へぇ、凄い、物知りだね。
―母親に教えてもらったんだよ。もう死んだけどな。
―へぇ・・・。
―それにしても、最近敬語を使ってないぞ。
―なんか、同じ人のように思えて・・・。
俺はそれに同意した。
春一番が何かを運んできたように思えた。