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今更、あの時の代償が帰ってきたんだろうか?
俺、屋号進(やごうすすむ)はパソコン室を出る。
最近電球がおかしくなったせいか、廊下がやけに暗い。
そんなちょっとしたことも俺をさらに絶望に追い込もうとしている。
生まれたての子どもの先天性の病気。俺は、病名は覚えていない。ただ、医者からなんか呼び出されて、
「あなたのお子様の命はあと1週間しか・・・。」
此処で俺の記憶は途絶えている。
いや、普通の人ならこう思うだろう。「また産めばいいじゃん。」
だが、俺にはそのような余裕は無いのだ。なぜならもう産むべき人はいないのだから。
母子ともに危ない状態。そして、その母は結局助からなかった。
で、その何とか生まれてきた子供が後一週間だ!もう何を考えればいいのか。
そして、医学の知識があるはずもない元不良の三流大卒の男はパソコンで病気を調べる。
何も出てくるはずもないのに。
不良なんて数えるほど少ないわけではない。沢山いるのだ。
働かない社会の不良、暴行・窃盗を繰り返す不良、不良界をビジネスにして組としてまとめる不良。
俺はどちらかと言えば暴行を繰り返す不良だった、
だが、いつだっただろうか?俺は鞄をひったくって逃げようとした女子の顔を見た瞬間。
人生は変わってしまった。ブラック・オア・ホワイトのあれでまさに逆転した。
全うに生きてみようかな。そう思えるほどだった。
「・・・返す。やっぱり盗るのは止めた。おまえに返すよ。」
そいつは暫く何が起こったか分かりません。みたいな顔をしていたがやがて鞄を俺の手からとって、
すたすたと歩いていった。
俺は出頭した。
そして、3年後、運命のループがまた二人を巡り合わせて―
パソコン室を出てきた俺は誰もいないリビング。写真立てをじっと見る。
数週間前はお腹をさすって笑っていた女がそこにいた。俺に肩を抱かれて。
そして、本棚にあった何処にでもありそうな漫画を手に取り、漫画に更ける。
その内容は皮肉にも、天才外科医が離島に行き、
そこにいた難産の人とその子どもを助けた話だった。
俺は普通感動するそれに対して怒りを覚えた。何でおまえだけが、何でおまえだけが。
紙とインクで出来ている物体なのに。
せめて、子どもだけは助けたい―
すると、目の前に光が立ちこめたかと思うと、そこには見慣れていない白色の物体が。
「なら、願いを叶えてあげなけりゃダメチャオね。」
「な、何だよ、おまえは!」
「おまえといえば僕はおまえチャオ。それ以上詮索する必要はないと思うチャオ。」
「・・・成る程な、で、願いが叶うとな。全く、俺の夢に出てくるにしてはずいぶんな奴だ。」
「成る程チャオ。まぁ、つねって確かめても痛いだけチャオよ。現実なんだから。」
『チャオ』とむかつく語尾を付けてくる奴はにやにやしながら話しかけてくる。
今の俺の心情なら衝動でぶっ殺したくなってくるはずの奴だが自然とそれはしなかった。
「で、子どもを失いそうな男さん。願いは何チャオ?」
「ふぅ・・・もう詮索は疲れた。ああ、それと俺は屋号さんとよべばいいよ。」
「ヤゴさん?」
「やごうだ。それは虫の名前だ。」
すると、その白色の物体はてへへと笑って、
「別にいいチャオ!これからヤゴさんと呼ぶチャオ!ついでに僕はヒーローカオスチャオ!
人を幸せにする職業チャオ!ヒーカと呼べばいいチャオ。」
『へぇ、ヤゴさんっていうんだ?』
『違うよ。全くつきあってる人の名字間違えるなよ。』
『分かってるよ、進。』
『う・・・まぁヤゴさんで良いよ。』『うん。』
う・・・やばい、昔の記憶が一気に流れ込んできた。
「どうしたチャオ?」
「いや、大丈夫さ。で、願いを言えばいいんだな。」
「そうチャオよ?なんか心配チャオねぇ。昔のことでも思い出したチャオ?」
「そんなはず無いだろ。」
図星だが。
「で、俺の願いはな。俺の子どもを救出して欲しいんだ。・・・夢に何言ってるんだか。」
「まったく。まだ信じていないチャオね。ヤゴさんは。」
「で、どっちでも良い。これを受理してくれるのか?」
「最大限の努力をするよ。で、子どもは何歳まで成長させたいの?」
「出来れば平均年齢まで。」
「暫定72歳チャオね。じゃあ、交換条件を言ってもらうチャオ。」
「こ・・・交換条件だと?」
チャオはそのにこにこしながらも、少しニヤリとしていった。
「そうチャオよ。この願いは運命のループを変化させる必要があるチャオ。重労働だよ。
でも、運命の交換だけなら楽に作業が出来るから短時間で願いが叶うチャオ。」
「成る程。で、どんな条件が良いんだ?」
「それは、誰かの願いを代わりに叶えることチャオ。ヤゴさんが。」
「な・・・何だと!?」
「そうチャオよ。まぁ、長生きさせる願いのプランは願いを叶えるのは一人で良いと思うチャオ。」
「で、誰の願いを叶えればいいんだ?誰の・・・。」
俺は疑問をぶつけた。