-急- 謎解きの切り口

「続いて、どうやって須磨子夫人を密室の中から運び出したかですが、出辣さんなら、できるんです。
 出辣さんはこの館の執事、この館については詳しい。
 簡単な方法です。夜、出辣さんは須磨子夫人の部屋の窓を割って、そこから中に侵入する。
 須磨子夫人を連れ出し、殺害し、どこかに隠した後は、その窓を新品に取り替えてしまうんです。
 接触センサーがありますが、うまくやれば窓からはがすことができます。
 今朝の須磨子夫人消失騒動に紛れて、こっそりなおしたのではないでしょうか?」

さらに続ける某氏。
「同じ事が呂土さんにもできそうですが、呂土さんには動機がありません。
 しかし、出辣さんにはあるんです・・・最もこれは、チャオチャオさん方は知らなかったでしょう。
 私が須磨子さんとの打ち合わせを何度過去の家で行う内に知ったことなんですが、
 出辣さんはどうも、給料の点で不満があったようなんです。泊まり込みで何もかもやっているのに、相場以下だ、と。
 その事で須磨子さんとも何度か交渉している所も、私は見ています。」

黙ってしまった二人に向かって、某氏は聞く。
「どうでしょうか、私の推理は?」
チャオチャオがぽつりとつぶやく。
「ダメですよ、某さんの推理じゃ」

「え?」
聞き返す某氏に、チャオチャオが返す。
「某さんの推理では、須磨子夫人がどこに隠されていたのか明らかになっていない。
 この館の隅々を、呂土さんは探したんですよ?
 須磨子夫人が屋根につり下げられた理由も明らかではありません。
 それにあなたは、昨夜ものすごい雨だったことを忘れています。
 豪雨の中、窓の割れ換えなんかしていたら、部屋の中はびしょ濡れになってしまい、乾きません」
チャオチャオの台詞に、落胆する某氏。

チャオチャオは、その膝にそっと手を置き、静かに伝える。
「そろそろ夕飯になりそうです。全員がホールに集まるように手配できませんか?」

「それは・・・ひょっとして・・・」
「名々探偵の、推理ですよ。」






ホールに、全員が集まった。
ちかちかと燃える暖炉の炎が、チャオチャオの顔を照らし出す。
「さて――」
長テーブルに並べられた料理を見て、チャオチャオが手を合わせる。
「いただきます!」
「ちょっと待て!」

チャポンにぽかすか殴られたチャオチャオは、いててと顔をしかめつつ、皆に料理を示す。
「皆さんはどうぞ食事に手をつけておいてください。自分は勝手に、推理を話しますので」
そうはいったものの、誰一人、料理に手をつけるものはいない。
全員が、チャオチャオに注目している。

チャオチャオは少し押し黙ってから、静かに話し出した。
「よくよく考えてみれば、簡単なことだったんです。
 須磨子夫人の部屋は、窓が一つとドアが一つ。窓は豪雨で使えません。
 ということは、犯人はドアから侵入したことになります。
 マスターキーは呂土さんの部屋にありました。それを使えばいいんです。」

「しかし・・・」
呂土氏が口を挟んだ。
「僕は昨日の夕食後ずっと、自分の部屋にいました。
 昨日の夕食後も、マスターキーは僕の部屋にあった事を確認しています。
 昨夜、見つからずにマスターキーを手に入れることは不可能だ。
 まさか、僕が犯人だとでも言うんですか?」

「ちょっと待ってください。」
チャオチャオは呂土氏の言葉を手で制した。
「ずっといたといいますが、本当にずっといたわけではないでしょう?
 トイレに行くことがある。僕の想像ですが、あなたはおそらく、トイレに行くとき部屋に鍵をかけていない。
 なぜならあなたの部屋はトイレにすごく近いから。どうですか?」

渋々うなずく呂土氏。

「これで、犯行はほとんど誰にでも可能だったことが明らかになりました。
 そこで、犯人像を推理してみましょう。
 この事件で最も不可解だったことと言えば、何でしょう?チャポン君?」

突然指名されて、チャポンはびくっとする。
「え、えーと、須磨子夫人の消失から、死体が現れるまでのタイムラグかな?」
「それもありますが、最も不思議なのは、須磨子夫人の死体が、あのように目立つ場所につるされた理由です。」
チャオチャオの台詞にチャポンが「タイムラグだって不思議じゃんかよー」と文句をたれる。

「ここに、犯人の意図があると考えます。単純に考えれば、わかるんです。
 死体をあの場所につるすにはどうするのが一番簡単か?
 ネックレスをかけるように、上から縄の輪を落としてはめるのが簡単なんです。
 その動きを実現できるのは、空を飛べるライズ君しかいないんです。」

ライズを見つめるチャオチャオ。その目が、鋭い。
「おわったな。確かに、やったのはオレだ、認める。」
ライズの台詞は落ち着いている。

チャオチャオは続ける。
「しかしこのライズ君は、おそらく利用されただけでしょう。」
「どうしてわかるんですか?」
某氏が聞く。

「それは、あまりにあからさまだからですよ。
 ライズ君が自分で犯行計画を立てたのなら、あんな自分が犯人だと、自分から言うようなまねはしない。
 おそらく計画を立てた人物は、ライズ君に罪をなすりつける目的で、こんな計画にしたんでしょう。
 犯人は、おまえだ。」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第258号
ページ番号
5 / 6
この作品について
タイトル
雨館
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第258号