-急- 解決とは

「冬木。」

チャオチャオに指さされた冬木君は、一つ息を吐いた。
「どうしてそうなるんですか?理由は?」

「想像も含みますが、動機はおそらく、冬木君が公立の中学校に通う事になったのが原因でしょう。
 そこでの生活は、冬木君にとって今までにない、楽しさだった。そして、
 今までそんな学校経験をさせてくれなかった母、須磨子に、憎悪に気持ちが芽生えた。
 犯人は知らなかったかもしれませんが、ライズ君だって、馬鹿ではないんですよ?
 彼は、自分に罪がかぶせられることを知っていながら、犯行に及んだのです。あなたを、かばうために。」

呂土氏が横から口を挟む。
「しかしそんなまさか・・・。
 須磨子が我が家にいなかったら、どういう事になるのか、それぐらい冬木にだって分かってますよ。
 僕が働いていないので、収入の無くなった我が家はつぶれる。
 それなのに冬木が、須磨子を殺すなんて、あり得ない。ばかげている・・・」

チャオチャオは呂土氏に告げる。
「収入が無くなる、そういいますが、あなたが働けばいいんです。小説を書けばいいんです。
 むしろ犯人は、それを望んでいたとも考えられます。才能はあるんだから、働けよ、と。
 冬木君は、父の書く小説が好きなんですよ。」

・・・冬木君が、ぽつりとつぶやく。
「まさかそこまで想像されるとは、思いもよらなかった。」
「まだまだですね、冬木君。」
チャオチャオが、静かに目を下げた。






「・・・と、ざっとこんなところだと思うんですが、そろそろ出てきてもいいんじゃないですか?」
チャオチャオが辺りを見回しながら、ぼそっと言う。
「ハッハッハ」
どこからともなく現れたのは、なんと須磨子夫人。

「さすが名々探偵、こんな余興程度では、お見通しですか。」
「ここまでするとは、須磨子夫人も手が込んでますね。でも、それなりに楽しめましたよ。」
「それなりと言うことは、不満もあったということで?」
「今回は心理戦が主でしたね。もっと物理的に手が込んだトリックが、欲しかったんですが。」
「それを言われると、痛い!」

そして、ハッハッハと笑い合う二人。


「説明してくれ。」
チャポンの頼みに、首をかしげるチャオチャオ。
「何を?」
「どうして須磨子夫人がここにいるのかって事をだよ!!」
「何だ、そんなことか。」

一つ間をおいて、チャオチャオはしゃべり出した。

「僕たちが最初にこの屋敷に来たとき、某さんが出てきたね。
 しかしその後、某さんの話を聞いていると、どうやら対談をするのは明日らしい。
 でもそれなら、某さんは明日来ればいいだけで、何も一泊する必要はない。
 そこで、某さんたちは、対談以外にも、何か考えているんじゃないかと思った。」

「いったい、誰々がこのドッキリに参加してたんだ?」

「おそらく僕らをのぞいた全員だと思うよ。
 出辣さんが宅配便から荷物を受け取ったとき、それを上の階に運んだだろ?
 たぶんその荷物ってのは、須磨子夫人の死体の模型なんじゃないかと思うんだ。」
うなずく須磨子夫人。

「それを屋根につるすトリックに見せかける事に使うのを知っていたから、出辣さんは上に運んだ。
 最初から役割がわかってたってことさ。
 逆に言えば、消失から死体発見までにタイムラグがあったのは、この模型が届いていなかったからだろう。」

チャポンは昨日の夕食時の、某氏の台詞を思い出した。
毎年、大雨が降るこの時期、それにあわせて、須磨子夫人は計画を考えていたんだろう。

「このトリックを実現させるには、雨が降っていることが必要だ。
 しかし、今年は例年に比べ、雨雲のくるのが早かった。そういいたいんだな?」

チャオチャオがうなずく。
そして、手を合わせる。
「と、いうわけで、ハッピーエンド。この料理もう、食べてもいいんだよね?」


                       -了-






後書き

某さん(作中のとは無関係)に聞く所によると、和田須磨子殺人事件、自由に書いていいそうで、勢いでやっちましたぜ。

チャオチャオとチャポンは、自分がずいぶん前に書いた小説から、探偵役と言うことで拾ってきました。
あの頃とは、2人の関係もずいぶん変わって、探偵事務所なんかやっているみたいですよ。
そして自分もずいぶん変わったと思います。あの頃より、数段階は、小説のレベルがアップしました(してますよね?)

思えば自分が最初に、小説を読むことに熱中したとき、その対象は、ミステリーでした。
それもいわゆる新本格のジャンルで、夢中で読みあさったことを覚えています。
しかし、読むのと書くのでは、ずいぶん差がありますね、やっぱり。
「もっと物理トリックを入れたい」というのは、今回の主な反省点でもあります。

気がつけば上の「制限」にあった4ページを軽く超えて、6ページにまでふくらんでしまいました。
でっ、でもですね、これでもかなり頑張って短くしているんですよ!!
そもそも最初の段階では連続殺人だったのが、結局一人しか死んでないですし!
付録の見取り図もカットしましたし!

そ、そろそろ字数制限が迫ってきているので、退散っ

このページについて
掲載号
週刊チャオ第258号
ページ番号
6 / 6
この作品について
タイトル
雨館
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第258号