-破- 調査と推理
チャオチャオたちは、呂土氏に感謝を伝えると、部屋を出て行った。
ホールに戻ったチャオチャオたちは、そこで掃除をしていた出辣氏に声をかける。
「夫人が消えたという寝室を見せてもらえないでしょうか?」
「・・・いいでしょう。ただし、あまり身の回りの物にはさわらないでください。須磨子様の持ち物ですから。」
須磨子夫人の寝室は、3階の左側で、一番ホールに近い所にあった。
チャオチャオがドアをキコキコ動かしながら、つぶやく。
「だめだな。この鍵、カード式だ。ピッキングも、使えない。」
続いて部屋の中の捜査を開始する。
といっても、部屋の中に、たいしたものはなかった。
大きめなベッドが一つと、その脇にクローゼットとチェストがあるのみである。
身の回りのものにさわらないように、と念を押されているものの、できる限りの調査をしていく。
しかし、表向き、特に違和感があるようには感じない。
チャオチャオは窓を確認する。
「外せないこともなさそうだが・・・」
窓の開閉を検知する接触センサーは、しっかりと固定されていたままだった。
と、そのときチャポンが声を上げた。
「ん?あれは!」
チャポンが指すのは、昨日車で通ったばかりの、あの小道であった。
すでに雨はほとんどやんでいるものの、ぬかるんだその地面には、2本の線がU字型にくっきりと見て取れた。
U字の曲線部分は、玄関先にまで及んでいる。
「さっき外に出たとき、あんな線あったっけ?」
「思い出せない・・・」
頭を抱えるチャオチャオ名々探偵。
そのとき、部屋のドアから、ノックの音が聞こえた。
がちゃりと扉が開き、現れたのは、執事の出辣氏。走ってきたのだろうか、息切れを起こしている。
一息ついて、チャポンらの視線を確認した所で、こう言った。
「須磨子様の遺体が見つかりました。」
出辣氏に言われるがままに、外に連れ出されるチャポンとチャオチャオ。
出辣氏の指さす方向を見て、あっと声を上げた。
洋館の中央にそびえるとんがり屋根に、長いロープがかかっていた。
そしてそのロープに首かけたまま死んでいるのが、紛れもない、和田須磨子本人であった。
遠くから見ても分かる、胸に深々と突き刺さったナイフ。明らかな他殺だった。
「どうしましょう・・・屋根からおろすべきでしょうか?」
出辣氏の疑問に、逆に問い返す。
「おろせますか?」
「いや、この館においてある道具だけでは、あそこは無理です。」
チャオチャオは、悩みつつも、答える。
「ならば、おろさなくても、結構です。死因は明確ですから、このままにしておいてください。」
全員のホールでの静かな昼食の後、
今度はチャオチャオの希望により、全員の事情聴取が行われることになった。
聞く事は、二つ、昨夜夕食後の行動と、今朝朝食後の行動の2点である。
まず、呂土氏が口を開いた。
「食後、冬木野部屋に向かいました。そこで学校の話を聞いていましたね。
内容は・・・食事の時の似たようなものですが。その後自室に戻り、本を読んで、就寝は11時頃だったでしょうか」
「誰か証人はいますか?」
このチャポンの質問に呂土氏は
「はい。」
と答えた。
「その本、某さんに借りたものなんです。読み切って返してから寝たので、そのときに某さんに会っています。」
「なるほど。で、今日の午前中は?」
「ずっと自分の部屋にいました。須磨子が何処に行ってしまったのか、気が気でなく、
思い当たる場所について考えていました。チャオチャオさん方も、途中僕の部屋に来ましたよね?」
続いて口を開く某氏。
「私は、携帯電話で本社にメールを打っていました。一応、これでも出張扱いですからね。
呂土さんに本を返してもらって、30分後ぐらいには寝ましたよ。
午前中は、対談の予定の変更を本社に伝えたり、出辣さんと相談しながら、須磨子さんが
帰ってくる事への見通しを立てていました。最も、こんな事になろうとは思いもしませんでしたが」
続いてチャポンは冬木君に話を振った。
「僕は昨夜は、父と話をした後、すぐに寝ました。9時半ぐらいにはなっていたと思います。
今朝は、特にすることもなかったので、ずっとライズとボードゲームに興じていました。」
隣でうなずくライズ。
「僕も同じ」
「では、出辣さんは?」
「私は昨夜は、夕食の後片付けを済ませた後、日課の日記をつけていました。
最後に戸締まりを確認し、布団に付いたのが11時過ぎでしょうか・・・。
今朝については、某さんとの相談や、館の掃除をしておりました。」
部屋に戻ったチャオチャオとチャポンは、二人して考え込んでしまっている。
と、そのとき、こんこん、とノックの音が二回して、某氏が現れた。
顔を上げる二人。
「ちょっといいでしょうか。」
チャオチャオは某氏に部屋の椅子を勧める。
「私の推理を聞いていただけないでしょうか?」
チャオチャオは少し考えてから、うなずいた。
「どうぞ。」
「自分の考える犯人は、おそらく出辣さんです。
先ほどのアリバイ確認の時に、出辣さんが隠した事実が一つあるんです。」
「ほう、それは?」
「それは、宅配便です。」
指を組む某氏。