-破- 事件の発生

脇では呂土氏がぶんぶんと首を横に振っている。
「何もしてない訳じゃなくて、時々週刊チャオさんに、お世話になっていますよ。」
「えっ、じゃあ2人揃ってチャオ小説作家?」
「いえいえ、僕は素人で、須磨子はプロです。似て非なるもの・・・って、これじゃあ仕事じゃないじゃん!」
傍らで苦笑する某氏。
「私はしょっちゅう、プロ作家にならないかと誘うんですけどね。呂土さんはいつも、断るんですよ。」

笑い声が響く。


そんな洋館を尻目に、窓の外の雨は次第に激しさを増し、
いつしか、夜も更けていった。

森を洪水のごとき豪雨が打つ。雷鳴も聞こえる。

この夜に、恐ろしい事件が起ころうとは、まだ誰も考えてはいないかった。






翌朝のことだった。
「大変ですチャオチャオ様!」
出辣氏がチャオチャオたちの部屋のドアを、激しくノックする。
「んん?」
その音に目が覚める、チャポンとチャオチャオ。
チャポンがドアを開け、出辣氏の顔をのぞき込みつつ、訊く。
「何事ですか?」

「須磨・・・須磨子様が、消えてしまったのです。」

はっとした顔で、チャオチャオをあおり見るチャポン。
チャオチャオは、真剣な表情で、出辣氏を見据えていた。
「詳しく教えてください。」






ホールに全員が集められた。
その中に、須磨子夫人の顔はない。

外ではまだ、しとしとと雨が降り続いている。
その音が極端に大きく聞こえるほど、話し始めた出辣氏の言葉は静かだった。

「順を追って話します。今朝の朝食の準備ができて、私が須磨子様の寝室へ呼びに行きました。
 ノックをしても返事がありませんので、そのときはいったん引き返して、呂土様の方を呼びに向かいました。
 この時点で、7時30分頃だったと記憶しています。
 呂土様は起きておられたので、呂土様と共に、もう一度須磨子様の部屋に向かいました。
 またしても返事がありません。そこで、呂土様の持ってきていたマスターキーを使いました。
 そして、消失に気がついたのです・・・」

呂土氏が話を引き継いだ。
「僕は・・・マスターキーを出辣から返してもらい、部屋を一つ一つ、入念に調べていった。
 その間に、出辣には皆の起床を確認するように頼んだはずだ。
 最後の部屋まで探したが、須磨子の姿はなかった。」
蒼白な表情の呂土氏。

チャポンが口を挟む。
「まだ消えたとは限らないんじゃないでしょうか?
 外に出ただけとも考えられませんか?」
その疑問に、出辣氏が答える。
「昨晩の大雨と雷で、外はとても出られたような状況ではありませんでした。靴もそのままですし。
 それに、この館の戸締まりは、防犯会社に依頼した頑強なものです。夜間の出入りは不可能です。
 もちろん昨夜もどこからも、出入りできなかったはずです。」

「警察へは連絡しましたか?」
「いえ、まだですが・・・、あまり警察やマスコミの騒ぎになるのはいやなので、
 館の中で何か事が起こったとしても、そうそう外には漏らさないように言いつけられていますし・・・」

「ふむ・・・」
チャオチャオがあごをつまんだ。
「名々探偵の出番ですね。須磨子夫人がどこへ消えたのか、ばっちりしっかり探し当てて見せましょう。」
「チャポンも同じく」
チャポン事務所長も手を挙げた。






チャオチャオとチャポンがまず向かったのは、外だった。
しとしとと降る雨の中、傘を差した二人は、豪華な洋館のとんがり屋根を見上げる。
「異常ありませんね・・・」
「そうかな・・・」

チャオチャオは窓の数を数えている。
館を正面から見ると、縦に三つずつ並んだ窓が、右側に三列、左側に三列。全部で18の窓。
館を左右から見ても、同様に縦に三つの窓が付いているのが見えた。
館の裏では、一階部分には窓が付いているものの、それ以上上の階には見あたらない。

正直、何の変哲もない窓である。



館に戻ったチャオたちは、なにとなく、呂土氏の部屋に向かっていた。
トイレの前を通り過ぎ、向かいのドアをノックする。
「どうぞ――」

部屋の中に入るチャオチャオたち。
呂土氏は一人、机に向かい、思い悩んでいる様子だった。

「ああ、チャオチャオさんたちですか。」
机の上には、呂土氏が趣味で書いているという、チャオ小説を印刷したものが、積み重なっていた。
「Don`t MIX!!」の文字が見える。
「ああ、それは昨夜、冬木が見せて欲しいって言うもんだから、急に刷ったんですよ。」
そういってから、呂土氏は、チャオチャオたちに椅子を勧めた。

呂土氏はチャオチャオたちに聞く。
「ひょっとして、何か手がかりが見つかったんですか?」
首を左右に振るチャポン。
「そうですか・・・」

今度は逆に、チャポンが呂土氏に聞く。
「須磨子さんは、今までにこんな風に、急にいなくなってしまうことはありましたか?
 また、誘拐の可能性もあります。心当たりは、ありませんか?」

「うーん」
悩む呂土氏。
「そりゃあ、今までにこんな事はなかったですよ。
 誘拐される心当たり・・・須磨子は優しい人です。まさかそんな事って無いですよ。
 冬木のライズだって、去年のクリスマスに彼女があげたものなんですよ。」

「つまり、わからないと」
「そうですねぇ」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第258号
ページ番号
3 / 6
この作品について
タイトル
雨館
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第258号