-序- 登場と晩餐

チャオチャオとチャポンは、慣れない雰囲気にきょろきょろしながらも、ゆっくり前へ進んでいた。

と、そのとき
「よく来てくれましたね」
と声がした右手を振り向くと、そこにいたのは須磨子夫人と、誰か知らない男の人だ。

「僕たちの洋館へようこそ。・・・っと、自己紹介が先か。僕は須磨子の夫の、呂土(ろど)っていうんだ。」
男性の自己紹介を、すかさず須磨子夫人が横から補足。
「得意技はノリツッコミ!」
なかなかのお似合いコンビのようである。

「やあやあ、よくきてくれましたね」
今度は螺旋階段の上の二階から、別の声がした。
みれば、男性のようだ。せかせかと降りてきて、チャオチャオと握手する。
「私は週刊チャオの企画コーナーの編集を務めさせていただいております、
 某三四郎(ぼう さんしろう)です。よろしくお願いします。」

相手方の自己紹介が終わると、今度はチャポンの自己紹介。
「僕の名前はチャポン、チャオチャオ名々探偵事務所の所長を務めています。」
続いてチャオチャオ。
「名々探偵のチャオチャオです。よろしくお願いします」
そして、二人揃って頭を下げる。

口を挟む呂土氏。
「事務所所長と探偵が別人なんて、なんだか意味ありげですね。」
苦笑するしかないチャポン。
「事務所設立の際に、色々あったんですよ。」


チャオチャオは辺りを見回しつつ、訊く。
「これで全員ですか?」
「いや、私たちの息子の、冬木と、チャオのライズがいます。おそらく二人で遊びに行っているんだと思います。」
須磨子夫人の言葉。
「夕食のころには戻ってくるでしょう。
 では、このホールでは今から夕食の準備に取りかかるので、お二人は部屋で休んで待っていてください。
 そこの階段を上がって2階、右に行った突き当たりの部屋を、用意しています。」






午後7時半頃、チャオチャオたちのくつろぐ部屋に、執事の出辣氏がやってきた。
「晩餐の準備が整いました。」

チャオチャオたちがホールへ降りると、周りの皆は、長テーブルについて座って待っている。
テーブルの上には、見事な晩餐が所狭しと並べられていた。
「うわあ、見事なフランス料理ですね。」
チャポンが、感嘆の声を上げる。
「中華だよ」
怪訝そうに指摘する某氏。


二人が席に着き、賑やかな夕食が始まった。
いつの間にか、須磨子夫人の息子の冬木君も席に着き、一緒に食事をとっていた。
聞いてみると、どうやらチャオチャオたちが部屋について三十分後ぐらいには、帰っていたらしい。

「それで、対談は、明日になるんですよね?」
某氏が須磨子夫人に訊く。
「ええ、その予定です。」
うなずく夫人。

ちなみに席順は、長テーブルの両端に、夫人とチャオチャオ、
夫人の横の席が某氏と冬木君で、冬木君の隣が呂土氏、某氏の隣がチャポンである。
冬木君は、膝の上にチャオ――ライズを乗せている。
出辣氏はここにはいない、食事は別室でとるそうだ。

呂土氏は息子の冬木君と隣の席で、なにやら話し込んでいた。
チャオチャオたちがその様子を眺めていると、呂土氏から声が返ってきた。
「実は、冬木は寮生の学校へやっているので、会うのは久しぶりなんですよ。」
「といっても、今年からなんですけどね。」
冬木が付け足す。

「ということは、今、中学1年生なんですか。」
「はい」
うなずく冬木。

呂土氏はそんな冬木を眺めつつ、言う。
「今まではずっと、自宅で家庭教師でしたからね。
 新しい生活になれているのか心配で、仕方がないですよ。ははは。」
それを聞いて笑う冬木。
「心配性で困った父です。家のことは、母に仕切られっぱなしですし。」
「おいおい、それを人前で話すなよ。」
「母の作品がヒットするから、父はいつまでたってもぐうたらですよ。」
「いやいや、おまえのお母さんはだな、僕がいないと仕事ができないんだ。
 僕が精神的に須磨子をサポートしているからこそ、この平和な家庭が築かれているわけだ。」
「そりゃないない」

チャオチャオが口を挟む。
「で、楽しいんですか、新しい学校生活の方は?」
代わりに答えたのは呂土氏だった。
「かなり楽しんでるらしいですよ。特に部活動が、えーと、何部だったか・・・」
「アイスホッケー部です。マイナーどころですが」
「そちらのチャオ――ライズ君は?」
「アイスホッケーをしているのは、冬木だけ。」
ライズの答え方は素っ気なかった。

ぼつぼつと、外から音がし始めた。外を見ると、雨が降っている。
「いよいよ来たか」
須磨子夫人との打ち合わせを終えた某氏が、静かにつぶやいた。

「毎年のこととはいえ、この大雨も、困ったものですね。」
須磨子夫人が合図ちを打つ。
「ああ、それが今年は、特にひどい。ウエストポリスの方なんか、もうさんざんだったんだろ?」

「ええ。」
答えたのはチャオチャオ。
「出辣さんが向かえに来た頃がピークだったらしくて、びしょびしょでしたよ。」
「例年よりずいぶん早く来られるんだから、困ってしまいますよ。地球温暖化の影響でしょうか?」
「異常気象ですねぇ」


料理を口に運びながら、チャポンが呂土氏に聞く。
「さっきぐうたらだとか言われていましたが、呂土さんはお仕事されていないんですか?」
「そうなんですよ!」
横から入ってくる、須磨子夫人。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第258号
ページ番号
2 / 6
この作品について
タイトル
雨館
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第258号