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私はそっと顔をあげる。
いつものようにそこには普通の一軒家が…。
…あれ?
そこには“見慣れないホテル”が建っている。
…いやいやいや!
こんな住宅街にこんな高い建物!
絶対に日照権とか条例無視しているし!
…よーく見てみると雲までそれは届いている。
嘘だ嘘だ!
そんな高いホテル、あってたまるか!
私はなんかいろいろな気持ちが交錯して、
そのホテルの自動ドアを通り抜けていた。
“亜空間ホテルへようこそ”
「…嘘…。」
中にはいるともっと広い空間が待ち受けていた。
絶対にあり得ない!
何か夢を見ているに違いない!
私が頬をつねろうとすると、
急に自分の名前が呼ばれた。
「ツジアイコさんですか?」
「…えぇっ!?」
つい変な声が出る。
それもそうだ。
絶対に一生にあったことのない、
色白の男が私をまっすぐに見て、少し微笑んでいる。
「…そうですけど…。」
「それは良かった。
このカギをどうぞ。」
「…398046497号室?」
…一体、何階なのよ!?
「…エレベーターにはいると、女性が1人いるので、
このカギを見せてください。
そうすれば、その場所まで案内してくれますから。」
「…そこには何があるの?」
「あなたを待っている人がいます。」
「…誰?」
「あなたが良く知っている人ですよ。」
「誰よ!名前!」
「それは言えません。プライバシーの侵害ですから。」
「…っ。」
それならこんな広いところで私を呼ぶな!
と愚痴を言おうとしたが、
それ以上に誰が待っているのかが気になったので、
私はまずはエレベーターに向かうことにした。
…
「…あぁ、398046497号室ですね。」
「…何階なの?」
「ざっと、一分でつきますね。」
「早っ!」
「指定室なので、すぐにつきますよ。」
エレベーターガール(?)の彼女は、
ぴぴぴっと色々な色のボタンを操作する。
すると、エレベーターは急にがたがたと動き出した。
「…で、何階なの?」
「階は決まってません。
このホテルはそう言うホテルなのです。」
「いや…意味分からないし。」
「ここは現実ではありません。
亜空間です。亜空間、ホテルです。」
「亜…亜空間?」
「そうです。さぁ、つきましたよ。どうぞ。」
私は促されるままドアをくぐり抜けた。
目の前には「398046497号室」がある。
窓から見た光景が宇宙でありそうで怖い。
私はそっとドアを開く。
そこには見覚えのない女1人と、
いつもの笑顔で手を振る男がいた。
「さ…ささ…サクヤ!どこへ行ってたのよ!」
「あ、アイコ。いやー、それが死んじゃって…。」
「嘘つけ!今そこにいるだろうが!
ってかその女誰よ!ねぇ!」
「んー。明日からお世話になるトモちゃん。」
「…っ。」
「ん?なに?そんなイライラした表情して…。」
「サクヤの…ばかぁ!」
私はそこにあった靴を思い切りサクヤにヒットさせる。
彼の頭にクリーンヒットしたらしく、
少しよろめくが、
すぐに笑顔で私の方を向いた。
「怒るなよアイコ。
そりゃ、死んだことはお詫びするけど。」
「嘘でしょ!
遺灰も、全部ただの炭だったんでしょ!
不倫するためにそんなコトしてまで私を騙すなんて…!」
「騙してなんか、いないさ。
俺は本当に、死んだんだ。
この人は、死に神。明日から、俺は本当にあっちに行く。」
「…。嘘よ…嘘に決まってる…。」
私はそこにあったベッドに寝ころんだ。
泣く気はなかったが、涙がこぼれ落ちてとまらなかった。
「あなたを待ってたのに…
あの日かって精一杯料理していたのに、
あなたのために一生懸命待っていたのよ…。
キャバクラ行ったとか…飲んできたとか…
いつもいつも、そんな日ばっかりじゃない…。」
As ever, the heavy rain makes me stop
and I chase the grow light in the dark,
shorting "Don't get away, but don't say truth"
You say,"How foolish that phrase of yours is...?"
Ah...,I heve already known...
サクヤは黙ってこっちを見ているようだった。
トモとかいう死に神は「後から来ますね」と言って部屋を出て行った。
サクヤは暖かい視線を向けたままそっと話し出す。
「…もう来ないで欲しいけどな。
でもまあ、俺はもう戻れないんだよな。
お前がいても、待っていても、戻れは出来ないんだ。
それだけは信じてくれるだろう。
俺の身体は全部燃えてしまって灰になったんだ。」
「…。サクヤ。」
「何?」
「何で私をここに呼ぼうとしたの?」
「あぁ、誕生日プレゼント。」
「…今更?」
「いいじゃん、もう渡せないよりは。」
そう言うと、うつぶせで泣いてばかりいる私に、
彼は花が咲き乱れるバスケット私の横に置いた。
私は涙を拭いてそれをそっと見つめる。
彼はそれにすぐに気付いて私に目を合わせようとする。
拒否は、しなかった。
「…。」
「結構綺麗な花だろ?ネリネって言うんだ。
よく分からないけど、綺麗だったから買ってきたんだ。」
「…ふうん、別に安物ー。」
「おいおい…そこは許してくれよ。」
「もしも、明日も私といてくれたら、許してあげるけど。」
「…それは、ゴメン。」
「だよね。…嘘でも、うん、って言って欲しかった。」
「でも、この花は枯れないんだ。
何かの力で俺がこの世界に持ってきたときから、絶対に枯れないんだ。」
「へぇ…ホント?」
「そ、ホント。だから、これから俺は誕生日プレゼントはあげれないけど、
許してちょ。」
「…いつの間にか泣きやんでた、私。」
「いつもそうじゃなかったっけ?」
「…へへ、そうだよね。いつも、そうだったよね。」
「…アイコ。」
「何?」
サクヤが口を開く。
だんだんと自分の意識が遠のく気がする。
“…俺はいつでも傍にいるから”
“…ぷっ、臭いセリフ。ばっかみたい!”
“バカだよ!黙ってればいいのにっ、この古女房!”
“うるさい古亭主!!…でも”
“…でも、私は好きだったよ…”
“…俺も…。…じゃあな、元気でいろよ…アイコ”
…
いつも言い合っていたその暴言も、
いつの間にか“幸せな想い出”になっていたりする。
気が付いたら、私は自分の家のソファで寝ていた。
今までの事は全部…
…大丈夫、嘘じゃない。
目の前の机、彼がくれたネリネが元気そうに咲いている。
私は少し笑顔がほころんだ。
それは間違いなく、これまでで一番の笑顔。
これもそれも、結局あなたのおかげなのね。
…これまで色々あったけど。
…これまで散々嘘を付かれていたけど、
もう許してあげよう。
最後の言葉は嘘じゃなかった。
もうそれでいいや。
寛大でしょ?
だって私はあなたの妻だから。
fin