九月一日

 人間、時には何かに感情を動かされ、そして熱烈に行動するモノであると思う。
 数年前、ステーションスクエアを中心に大規模な洪水が発生。その原因であるカオスと呼ばれる生物の暴走は、かの英雄ソニック・ザ・ヘッジホッグの手によって止められ、世界に大きな傷跡を残して事態は収束した。
 それ以来、世界的に注目を浴びた生物がいる。太古の昔から、その恐るべき環境への適応能力によって生存を続けていたチャオだった。
 多くの研究者達の手により、チャオの進化過程の調査、遺伝法則、様々なチャオの生態が明らかにされてきた。中でもカオスチャオと呼ばれる進化系統、文字通りあのカオスと似た姿を持つ不死身のチャオは、あのカオスもチャオから突然変異を起こした生物である事を明らかにしてみせた。
 ……と、お父さんに最初に聞いた。

「ふー」
 分厚い本から目を離し、凝り始めた肩をゆっくりと回す。
 中学生の身分でありながら、多くの書物に囲まれて椅子に座っている私。本名は明かさないが、ハンドルネームはミスティ・レイク。この名前の由来を知ってる人からは熱烈なツッコミが送られてくるのだが、名前を考えるセンスの無い私としては変えるのも面倒なので変えてない。友人からは親しみを込めてみーちゃんとか呼ばれている。
 チャオ専門の学者を父に持つ私は、幼い頃からチャオという生き物に多大なる興味を持ち、お父さんからいろいろな事を教えてもらっていた。最近は仕事で忙しくてなかなか帰って来れないので、空き部屋防止対策とか適当な名目でお父さんの部屋を利用させてもらっている。勿論、チャオの事を勉強する為。
 実は私、お父さんがチャオの研究者であるにも関わらず、人生の内で実際にチャオに会ったのはまだ一回だけ。この頃のチャオガーデンはまだ研究施設扱いだから、その手の人じゃないと入れない。友達に得意気に話す知識は増えていくが、私の心は虚しくなるばかり。
 しかし、それは今までの話。今の私は、十二月二十三日の聖誕祭が待ち遠しくてしょうがない。まだ四ヶ月後の事だけど。
 冬休みの終わった頃、学校の帰りに一匹のチャオに出会った。そのチャオは茶色い服装に身を包み、スナフキン……もとい、風来坊として旅を始めたばかりだと言う、とっても珍しいチャオだった。そして私はそのチャオと、聖誕祭の日を一緒に過ごす約束をした。きっと私とその子は聖誕祭では注目を浴びるかもしれない。……多分、別の意味で。
 だが、そのチャオと出会ってからというもの、チャオに関する法律が変わり始めようとしていた。人間と同様の知識を持ち始めたチャオを同じように社会に出すというものだ。この案は一、二年前から出されており、今年の聖誕祭を迎えると同時に実現されるという。そしてそれに伴い一般市民のチャオガーデン入場が許可され、その後のチャオガーデンは保育施設として機能する事になるらしい。
 各々から不安の声があるのは当然の話なのだが、私は当然嬉しい。昔から愛し、求め続けたチャオと、ようやくいつでも友達のようにふれあえるようになる。こんな日をどれだけ待ち続けた事か。
 ……未だに本と睨めっこする毎日ですが。
「あーあ。まだかなぁ、聖誕祭」
 最近、こんな風に嘆いてばかりな気がする。
 時の流れを早く感じたり遅く感じたりするのは個人差がある。私は専ら前者の方なのだが、今年は例年と違って一ヶ月が経つのすら長い。というか永い。このまま聖誕祭の日まで眠り続けた方が効率的とすら思えてくる。寝坊してしまえば全てがパーになるけど。
 そして私が嘆く様を見る私の友人の一人はこう言う。

「果報は寝て待て」

 結局寝ろと申すか。
 しかし私はインドア行動派という矛盾しているような性質なので、睡眠時間を作るくらいなら起きて何かしているタイプだ。残念ながらそんな事はできない。
 とは言っても、行動派がインドアであり続けるのは流石に無理がある。お父さんの持つ本のほとんどを読みきり、ネットでの交流も最近はそんなにしていない。要するに、暇。人間、こうなると事件の一つでも起きないかという物騒な事を考え始める。やだなー怖いなー人間って。あー事件起きねーかなー。
「うあー……あいてっ」
 伸びしたら椅子から落ちた。いてぇ。
「うわぁーっ! 嫌だぁーっ! 暇だぁーっ!」
 耐え切れなくなって、思わず叫んでしまった。今この家はお母さんが出かけていて私一人だし、近所迷惑の心配も無い。そんな事考慮してから叫ぶのもなんだけど。
 しかし、そんな声に応えたのか、この部屋のドアがノックされた。はて、いつの間にお母さんが帰ってきたのやら。
「開いてるよー」
 私が言うと同時に、ドアは乱暴に開かれた。
「友人だ! 手を上げろ!」
「警察の間違いじゃないのか、不法侵入者」
 ……あれ? なんかいろいろ間違ってね?
「まあまあ、ここに入っても盗む物って言ったらこの部屋にあるものしかないじゃない」
「お父さんの研究資料はすこぶる問題だよ」
 ちなみにお父さん、物の管理が非常にしっかりしており、何かが一つ足りなくなってもすぐに気付く。こういう仕事をしている人に必要なスキルの一つだろうか。
 それはさておき。
 彼女は私の友人で、本名は個人情報守秘の為明かさないがハンドルネームはマムル。お互いにまーちゃんみーちゃん呼ぶ間柄である。……ん? なんだかとっても危ない間柄のニオイが少しだけするが、ワタシ男じゃないからきっと気のせい。
 由来は「元ネタのモンスターがかわいいから」だそうだ。私はその元ネタを知らないが、彼女は所謂ゲームの雑魚モンスターが好きで、私がRPGを遊んでいる時にうっかり雑魚を倒すと怒られる。序盤ぐらいは許してくださいよ。
 ゲーム好きな一面を持つが、私よりはアウトドア。家で本やパソコンの画面と睨めっこしている私に世情を教えてくれる。多分、今回も何かネタがあるんだろう。
「というわけで、暇なみーちゃんに究極の果報を持ってきてやった、ぜっ!」
 寝転がっちゃいるが、寝てはいませんよ。
「というか事件よ、事件!」
「嘘こけ」
 真っ先に疑った。確かにフラグは立てましたが、そんな簡単に事件が起こるハズがない。ご都合主義ってレベルじゃねーぞ。
「かーっ、その様子じゃネットのニュースも見てないなー。ならばこの新聞記事と睨めっこするがいいわ!」
 とか言って、マムルはどこからともなく新聞記事を取り出し私の顔面へと投げた。その記事は私の顔に綺麗に覆い被さる。いいコントロールだと褒めておこう。新聞を手に取り、仰向けのままその記事と睨めっこ――

『カオス再び 各チャオガーデン施設にカオス出没』

 ・ ・ ・ ?
「ええええええええっ!?」
 足だけで、コンパスで九十度を書くように素早く綺麗に立ち上がった。どうやったかわかんないが、そんな些細な事はどうでもいい。
 驚くほど簡単にフラグが回収された事もあるが、あのカオスがチャオガーデンに現れた?
「ど、どういう事なのっ!?」
 勢いそのまま、マムルに詰め寄る。マムルはそんな私に気圧されてか、ドアを背にした。
「え、えーっと。原因不明・目的不明・行方不明。これでわかる?」
 がしっ、と肩を掴み。
「詳しく」
「ひぃーっ! お助けーっ!」
 なにやら叫んでいるマムル氏を、無理矢理私の部屋へと連行した。


 今月の初め、チャオガーデンにてカオスが目撃された。
 カオスは、ガーデン内にいるチャオの内数匹に近寄り、しばらくしてすぐに消えた。その時のチャオ達の証言によると「チガウ」の一言だけを告げられたらしい。各都市のチャオガーデンにも同じ例が確認されている。
 何故カオスが再び現れたかについては一切の手がかりが得られず、更にその目的も不明。ここのところはどこにも出没しておらず、その足取りも掴めていない。
 ――とまぁ、簡単にまとめるとこうなった。
「どこのニュースも報道してたのに、ずっと知らなかったの?」
「うん」
 呆れたように溜め息を吐かれた。別に今時テレビ離れなんて珍しくないじゃないか、ぶつぶつ。
「……それにしても、嫌なタイミングで出てきたね」
「嫌なタイミング?」
 至極残念そうに言うマムルの言葉の意味がよくわからず、思わず聞き返した。
「だって、今年でしょ? チャオの社会進出」
「あ」
 気付いた途端、私は座っていたベッドからずり落ちた。
「そうだぁー、もしこれでその話がパーになったらどうするんだぁー」
 生命の危機である。主に私の。そんな私を見るマムルの目はまたしても呆れていた。「そう言うと思った」みたいな顔で。
「……で?」
「で、って?」
 心的ダメージが絶大になりつつある私は、至極恨めしそうな声で聞いた。
「なんで私にこんな話を?」
 確かにチャオ専門学者の娘ではあるが、そんな一般市民にこんな嫌らしい情報を伝えてどうしようって言うのか聞きたい。
「いやー、やっぱその手の仕事をしているお父さんがいるんですから、何か良い情報でも持ってないかと思ったんですが――」
「無いね」
 カオスの事なんてたった今初めて聞いたんだから、そんなのあるハズない。それに、今お父さんに連絡を取ろうとしても無駄だろう。今年は例年以上に忙しいから、連絡も取れないと思うと言っていた。
「みーちゃんってさー、そういうトコ冷めてるよねー。なんか自分に都合の悪い事起こっても何もしないって言うか」
「区切りが良いって言ってほしいね。確かに社会進出の話がパーになるかもしれない事は私のメンタルにこうかはばつぐんだけど、なんにもできないんだから大人しくにげるコマンド使う」
「諦めんなよ!」
「…………」
 急に作ったような声で叫んだマムルを、救いようの無い目でじっと見つめた。
「ごめんなさい」
 あっさり負けを認めた。だから貴様は雑魚なのさ。もう少し勝算のある勝負を仕掛けるんだな。って、なんの勝負してんのさ私達。
「そりゃあ、私だって何かできる事があるならやりたいけどさー。無駄とわかって何かやるほど若くないし」
 一応、このまま悪者みたいなポジションに置かれ続けるのはどうかと思うので、適当に弁明でもしておく。
「おめー私と同い年だろーがよ」
 やかましい。
「どんな志を持っていようが、所詮私達は世の流れを見ている事しかできない無力な一般市民なのですよ……っと」
 ベッドからずり落ちたままの体を立たせ、軽く体を伸ばす。そして電源をつけたままずっと放置していたパソコンのマウスを握った。
 最近はあまりインターネットを利用していない。聖誕祭はまだかとそわそわしたりぼーっとしたりする毎日を送っていたくらいだから利用してた方がよかったのかもしれないが、どうもそんな気になれないでいた。おかげで電気代の無駄である。それなりに裕福な家庭だけども。ただ、マムルの言うとおり情報収集ぐらいは行っておくべきだった。後の祭りとはこういう事を言うのだろうか。
 お気に入りのボタンを押し、リストの中にある一つのサイトをクリックする。

「CHAO BBS」

 所謂、チャオを愛する者達のBBS。
 勿論同じようなBBSは数多く存在するが、チャオ関連BBSでは最多のユーザーを誇る。困ったらとりあえずここ。
 別に有名な研究者が利用しているだとかそういうのではなく、普通に民間人、そして大半が学生が利用しているという至って普通の場所。だがそれ故に、ここでの私のハンドルは結構有名。理由は勿論、私がチャオ専門学者の娘だから。
 私がここを利用しようと思った動機は、勿論ここにいる普通のユーザーと同じで、チャオの事を語り合いたいからだった。ところが父親がチャオ専門学者である事を話すと、一変して「ミスティ・レイク」は他のユーザーの目に留まるハンドルの一つとなった。私以外にも、親族がチャオ専門学者であるという人が三人。おかげさまで何故か四天王扱いされてしまった。
 前途の通り、最近はネットにすら繋いでなかったので、最近はここがどうなっているのか全然知らない。まぁ、カオス出現とあってはとんでもないスピードで巨大なツリーが形成されているんだろうなぁと思う。いちいち全部に目を通すつもりはもちろんないが。

「チャオ軍事利用計画」

 吹いた。何コレ。
「ん、どうしたの?」
 私のオーバーリアクションに反応したマムルが、私の肩に頭を乗せて画面を覗いてきた。そして私と同じ一行の文章を見た途端に、怪訝な顔をする。
「なぁにこれぇ。イタズラ?」
「かなぁ……」
 なにやら物騒なタイトルと共に、その下には分厚い資料の目次みたいなモノに書かれる名前のようなレスが沢山付き、そこだけでもかなりのツリーを形成していた。イタズラにしては、かなり凝っている。掲載日時は、ちょうど今日の早朝のようだ。
 一応、内容の確認をする為にカチっとクリック。そして本文を見て、驚きが隠せなかった。
 近日のカオス出没の混乱に乗じてのイタズラかと思ってたのだが、蓋を開けてビックリ。中身が異様なまでにしっかりしているのだ。上から下まで適当に流し読みしていても、本格的な文章である事がわかる。
 試しに下につけているレスも読んでみると、同じようにしっかりとした文章が並んでいる。いくつかには絵図らしきものへのリンクも用意されている。
「他のユーザーのレスも沢山ついてるね」
 確かに、異常なまでの数のレスが付いている。その中で気になるレスを一つクリックしてみると、そこには「他のチャオ関連のBBSにも全く同じ事が書き込まれている」と言った事が書かれていた。
 試しに検索サイトへと飛び、そこで「チャオ軍事利用計画」というとっても物騒なタイトルを入れ、検索をかけてみた。そして更に驚いた。
「これ、本当にどこもチャオ関連のBBSじゃない!」
 ニページ目、三ページ目と探していっても、どこまで行ってもBBS。一応それぞれの場所に本当に同じ内容が書かれているのか確認してみるが、どうやら全く同じ。掲載日時も今日の早朝近く、最初に見たのとほぼ同一。
「まさか、本物……?」
 マムルのその言葉に否定はしなかった。それどころか、私の思考の中で一つの確信が芽生える。
「……内部告発?」
「え?」
 思わず口から出た私の言葉に、マムルは首を傾げる。
「今はまだ断定できないけど、ここに書いてある計画っていうのに参加している人の何人かが、目の付く所に情報を公開したんじゃ……」
「え、でもなんでこんな時に?」
「こんな時、だからよ」
 私の言葉に、マムルは首を傾げるばかり。あんまり曲げてばっかりだとポロッと落ちるぞ。……想像したら首が冷えた。
「カオス出没よ」
「カオス?」
「そう。その情報を知った計画者達の内数人が、自分達の行っている事の危険性に気付いて計画の中断を申し出たんだけど、責任者がうなずいてくれない。だから、自分の身の危険を覚悟で世間に情報を公開した」
 一つ大きな息を付き、説明を締めた。なんかおおーとか拍手もらったけど、うれしいデスとか言えねぇ。
「でも、一番の問題があるんだよねぇ」
「え、何?」
 どういう事なのかわからないように首を傾げるマムル。溜め息混じりに、簡単に言ってみせた。
「なんで警察とかに情報を流さないのか」
「あっ……」
 ポヨがあったら、頭から感嘆符を出してるであろう仕草。もう説明の必要はないだろう。
 理由を考えるとすれば。内部告発というのは行う側にリスクがつくのは当然の事。この計画とやらを考えてる規模の大小はわからないが、圧力をかけられたせいで警察になんか情報を流せたもんじゃない、というのが一応の理由になる。
「……まぁ、どうせ全部推測なんだけどね」
「なはは、みーちゃんそれ言ったらおしまいだよー」
 そんな風に私達がとっても一般市民しているその時、部屋に置いてある子機電話が鳴り始めた。随分とタイミングが良いなと思いつつ、ディスプレイを見る。
 ……見た事のない番号だった。とりあえず電話を取り、応対をしてみる。
「もしもし……」
『もしもし。私、チャオ専門学者のマーカスと言う者ですが……』
 マーカス、という名を聞いてハッと思い出した。
「え、マーおじさん?」
『ん……? おや、ひょっとしてみーちゃんかい?』
「うん! やっぱりマーおじさんなんだ!」
 マーおじさんと言うのは、昔から私のお父さんと一緒にチャオの研究を行っていて、私も幼い頃からよく顔を会わせていた。小学校高学年になる頃には随分と会っていなかったのだが、本当に久々の電話だ。
 後ろで「え? マー……て、私おじさん?」とかボケてるマムルを華麗にスルーし、話を続ける。
「凄い久しぶりだね。どうしたの? お父さんに用?」
 私の問い掛けに対し、電話の向こう側から異様に重い空気が流れてくる気がした。
『……多分、用があるのはお父さんの方だと思うけどね』
「え?」
『手短に話す。二度も言わないし質問もほとんど答えられない。一度で聞いてちゃんと理解してくれ』
 人間、二度は言わないと言われると聞き漏らさないように必死になる。それすら聞いてない人間の事は知ったこっちゃないが。ともあれ、電話から流れてくる音声に耳を澄ます事に。
『みーちゃんはもう、ネット上のチャオ関連のBBSは見たかい?』
「え? うん、ついさっき」
『そうか。それなら、話は早いな』
 電話の向こうでマーおじさんが一呼吸するのが聞こえる。
『そこに書いてある内容は、全部本当の事だ』
 …………。
「え?」
 少しの間、おじさんの言った言葉を解釈するのに時間を要した。
 他人から見れば、途中までの会話の流れでおじさんが何を言うかわかるかもしれない。だが、私はマーおじさんという人物を良く知るが故に、逆にわからなかった。昔から仕事の事を聞こうとすると「あんまりつまんなくて眠くなっちゃうよ」なんて風に返されるので、おじさんの口からそういった類の話は出てこないモノと、今日この時までずっと思っていた。それが今、あっさり覆された。
「あの書き込み、イタズラじゃないの?」
『ああ。あれは全部、僕や同僚達があちこちに載せたんだ。内部告発として』
「おじさん達が!?」
 信じられない。主に、私の予想が当たった事に関して。もしこれが四月だったら、人騒がせなエイプリルフールで終わるのに。ただ一つ気になる事があるとすれば。
「でも、なんでBBSなんかに? そんな大事な事なら、警察にでも……」
『無理だ』
 私の口から出る疑問を先読みしていたかのように、早急な駄目出しをくらった。
『この計画は、軍部や政府が圧力をかけてる。世間に知られれば間違いなく問題になるんだ。なんとなく、わかるだろう?』
 なんとなく……確かに、なんとなくわかる。計画に参加する動機は省くとして、私がその計画の当事者の立場だったら、絶対に国民達に情報を公表なんてさせたくないと考えるだろう。って、なんだか悪者の思考回路持ってるな私。
『だから、僕やその他の者はこの計画の組織から抜け出せなかったし、むやみに情報を流出できなかった。だけど、あのカオスが出没したとあっては早急に手を引かざるを得ない。だから今日、思い切って情報公開に踏み切った』
 ……なんというか、言葉が出なかった。私はただ、物語にでもありがちな事情の背景を適当に予想というか想像しただけだ。なのに、まるで完成図を見ないでおっきなジグソーパズルを完成させたかのようにピタリと当て嵌まってしまった。
『それで、僕や同僚達は全員逃亡中なんだ』
「だ、大丈夫なの?」
 あまりの急展開っぷりに頭がついていかなくなってきたが、無理矢理にでも頭を働かせ、口を動かす。ぼーっとしてると、あらゆるものに置いてかれそう。
『追っ手から逃げ回るなんて、映画で見るのは好きだったんだけどね。こんな緊張感、僕には似合わないな。……いいかい、BBSの情報は今の内に保存しておくんだ。僕達は今からみーちゃん宛てに協力者を送る』
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 勝手に話を進めるおじさんの言葉に、私は慌てて静止をかけた。
「助っ人って何? 私みたいなただの学生ができる事なんてないよ。直接、マスコミとかに情報を流せば……」
『勿論そうするさ。でも、君しか持ってない証拠があるんだ』
「え?」
 私しか持ってない証拠? そんなの、ベッドの下にも、箪笥の奥にも、小説の栞代わりにも、スカートの中にもありゃしない。いったい、その証拠というのはなんだ?
『……お父さんから聞いたよ。君、一月頃にチャオに会ったんだって?』
「う、うん」
 一月に出会った、旅するチャオ。私は嬉しさのあまり、色んな人に広めたのを覚えている。勿論、お父さんやお母さんにだって話した。それがどうかしたのか。
『君しか持ってない証拠――間違いなく、そのチャオだ』
「え?」
『いいかい、もう説明する時間もない! 協力者がそっちに辿り着い――、そのチャオの事――教え――! 頼ん――』
 雑音が入り混じってうまく聞き取れないおじさんの声を最後に、電話はぷつりと切れてしまった。

 頭の中が、非日常的の全てを否定している。
 だが、そんな私の思考の底にこびり付いた情報が一つ。
「……フウライボウ……」
 のんびりと釣りをし、焼き魚を美味しそうに食べ、撫でられても抱っこされても喜ばない、印象的なチャオ。
 あれが、私の持つ証拠?

「……みーちゃん?」
「……まーちゃん」
 心配そうに声をかけたマムルに、私は真剣な声をかけた。
「これは、事件だよ」
 手に持ったままの子機電話を置き、私は日常に一時の別れを告げた。

このページについて
掲載日
2009年12月24日
ページ番号
5 / 10
この作品について
タイトル
A-LIFE
作者
冬木野(冬きゅん,カズ,ソニカズ)
初回掲載
2009年12月24日