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「ご主人さまとはぐれたのかな?でも、こんなところでウロウロしてたらあぶないよ。ね、公園で待ってよ、きっとご主人さまが迎えに来てくれるからね」
そういうと、メグミはチャオを連れて、さっき座っていたベンチに戻りました。
ここからなら大通りがよく見えますし、大通りからも見えやすいので、このチャオのご主人さまを見つけることは、難しくないはずです。
小さく見えるクリスマスツリーを眺めたり、遠くから聞こえてくるクリスマスソングに耳を傾けたり、時には静かに歌いながら、ふたりは、チャオのご主人さまが来るのを待っていました。
お日さまの暖かさを楽しみました。
素敵な夕焼けを見ました。
一番星の輝きを、真っ先に見つけました。
そして、夕闇の中にきらめくクリスマスイルミネーションに感動しました。
でも、ついにチャオのご主人さまは現れませんでした。
すっかり暗くなった公園で、メグミはチャオに話しかけました。
「きっと明日には迎えにきてくれるよ。でも、今日はもう遅いから、うちにおいで。明日また、ここに来ようね」
こうして、ふたりはメグミの部屋に帰ることにしました。
クリスマスムードいっぱいの町の中とは対照的な静かな部屋でした。
ただひとつ、小さなクリスマスツリーだけが、クリスマスが近いことを感じさせていました。
でも、そのツリーには何の飾りもつけられていませんでした。
ひとりで過ごす誕生日も嫌なものですけど、ひとりっきりのクリスマスも寂しいものです。
だから、ツリーに飾りをつけるつもりはなかったのです。
チャオは、そのクリスマスツリーに気づくと、不思議そうにメグミの顔を見つめました。
「誰も来ない部屋にクリスマスツリーを飾っても仕方ないもんね・・・」
メグミは独り言のように、そう答えただけでした。
次の日、ふたりは朝から公園にいました。
チャオのご主人さまを待つためでしたけど、夜まで待っても、やっぱり迎えに来てくれませんでした。
クリスマスイルミネーションに飾られた道を帰りながら、メグミはこのチャオのことを考えていました。
そして、部屋に帰ると、その考えを口に出しました。
「ねぇ、キミ、ご主人さまが迎えにくるまで、私といっしょに暮らそうよ」
チャオは、その提案に、ちょっと驚きました。
そして、ちょっと嬉しいと思いました。
でも、ちょっとだけ迷惑だと思いました。
だけど、ひさしぶりに受けた、人のぬくもりを、今は受け入れてもいいと思いました。
「そうだ、名前を考えないといけないね。どんな名前がいいかな?」
チャオをだっこしたまま、メグミは色々な名前を考えてみました。
チャオの顔を見つめたまま、長い間考え込んでみたり、ぎゅっと抱きしめながら考えたり、時にはチャオを色んな角度から眺めながら考えていました。
「なかなか決められないなぁ。そうだ、キミに決めてもらおうか。今から、いくつか名前を言うから、気に入ったのがあったら教えてね」
そう言うと、メグミはチャオをテーブルの上に乗せました。
「まずは・・・『ブレイブ』、勇気、どうかな?」
メグミはなかなか気に入っているようですが、チャオは首を傾げています。
どうやら気に入らないようです。
「う~ん、じゃあ、『スフィア』なんてどう?いい響きでしょ?」
やっぱりチャオは気に入らないようです。
今度は、頭の上のポヨが「グルグル」になってしまいました。
「あう、そんなに気に入らないかなぁ・・・、それじゃあ・・・」
メグミが次の名前を考えていると、チャオは近くにあったエンピツを手にすると文字を書き出しました。
ア・オ・バ
それは、チャオのご主人さまがつけてくれた大切な名前でした。
今は、遠く離れてしまったご主人さまですが、この名前があるかぎり、いつか再会できると信じているのです。
だから、チャオはメグミにも、この名前で呼んでもらいたいと思ったのです。
「アオバ?そっか、これがキミの名前なんだ。いい名前だね」
このチャオに、こんな素敵な名前をつけてくれたご主人さまを想像しながら、もう一度メグミは名前を呼びました。
「アオバ」
本当の名前で呼ばれたチャオ、アオバはとっても嬉しそうにしています。
「そうだ、アオバ。明日クリスマスツリーの飾りを買いにいこうよ」
飾るつもりのなかったクリスマスツリーでしたけど、アオバが、町でクリスマスツリーに見入っていたことを思い出して、メグミは飾りつけをしようと思ったのでした。
つづく