ページ1

クリスマスのイルミネーションに彩られた町の中の小さな公園で、一人の女の人がぼんやりとベンチに座っています。

友達とショッピングに行く約束をしていたのですが、待ち合わせ場所に着いてすぐに、その友達から電話がありました。
「ゴメンっ!メグミ。急に彼氏に誘われちゃった。ほっんとにゴメン。この埋め合わせはゼッタイにするからね!」
一方的にそれだけ言うと、返事も聞かずに電話を切られたのでした。

一人でいるのには慣れていますし、クリスマスの時期に町中が恋人たちのものになっても気になることはありませんでした。
でも・・・。
「この季節に、彼氏がらみでドタキャンかぁ・・・、フリーの身にはこたえるなぁ・・・」
思わず呟いてしまいました。

そんなわけで、なんとなく何もする気になれずに、そのまま待ち合わせ場所の公園のベンチに座っていたのです。

クリスマスムードに包まれた町の様子を眺めていると、恋人たちだけしか歩いていないような気になってきました。
一人でいる人を見ても、それは恋人のためにプレゼントを買いに来ているように思えてしまいます。

「クリスマスまで、まだ日にちがあるんだから、今からこんな雰囲気にしなくてもいいのにさ」
独り言も愚痴ばかりになってしまいます。

そんな町の中に、メグミの目を引くものがありました。

青い色をした小さな生き物。
遠くから見ても、ぷるぷるのぽよぽよだというのが分かります。

チャオです。
町の中を、ちょこちょこと歩き回っています。
しばらくウロウロしていましたが、ショウウィンドウの中のクリスマスツリーを見つけると、そのままジッと見続けています。

メグミは、そんなチャオの様子を見つめていました。
そして、チャオがひとりでいることに気がつきました。
普通のチャオは、ご主人さまといっしょにいるものなのですが、このチャオのそばには、それらしい人はいませんし、チャオ自身も、ご主人さまを探しているような感じはしませんでした。

「迷子・・・かな?それとも、あのコもフリーなのかなぁ?」

そんな一方的な親近感を持ってメグミはチャオを見続けました。
チャオは、ショウウィンドウのクリスマスツリーを見ていましたが、しばらくするとその場を離れました。
またウロウロし始めましたけど、クリスマスの飾りに興味を惹かれるのか、クリスマスツリーやイルミネーションのそばを通るたびに、歩きながら見ていたりします。

そんな感じでなので、色々な物に当たりそうになったり、人にぶつかりそうになったりしています。
そのうちに、車にひかれそうになったのを見て、メグミはベンチから立ち上がりました。

「あぶないよ」
そう声をかけながら、メグミはやさしくチャオをだっこしました。


ひさしぶりに見た町は、クリスマスの飾りでキラキラと輝いていました。
そんな町を見たチャオは、ここになら探しているものがきっとあると思いました。
だから、思い切って町の中にまで入ることにしたのです。

人に出会うことにはちょっとドキドキしました。
でも、素敵なクリスマスの飾りにワクワクしながら、町の中を歩いていました。

そして、あるお店のショウウィンドウの中に、とっても大きくてきれいなクリスマスツリーを見つけたのです。

大きなモミの木にピカピカと輝く小さな光。
白い雪化粧と色とりどりな飾り。
そして、ツリーのてっぺんには、大きなお星さまがありました。

こんな素敵なクリスマスツリーを見るのはいつ以来だったでしょう。
チャオは、このツリーをそのまま持って帰りたいと思いました。
でも、ガラスの向こうのクリスマスツリーには、手が届きそうにありませんでした。

クリスマスツリーを持って帰ることはすぐにあきらめたチャオでしたけど、それでも素敵なツリーからなかなか目を離すことができませんでした。
でも、クリスマスツリーを見るために町に来たわけではないので、思い切って歩き出すことにしました。

それでも、町中にあるクリスマスの飾りに、ついつい惹かれてしまいました。
何かにぶつかりそうになったことにも、ぜんぜん気がつきませんでした。

そんな時でした、誰かにやさしくだっこされたのは。
ご主人さまと別れて以来、触れることのなかったぬくもりに、チャオは懐かしさを感じ、そして、ほんの少し拒絶したいと思いました。



つづく

このページについて
掲載号
週刊チャオ聖誕祭記念特別号
ページ番号
1 / 4
この作品について
タイトル
12月の迷子
作者
懐仲時計
初回掲載
週刊チャオ聖誕祭記念特別号