13-B

際限なく流れ込んでくるエネルギーは、ウークの充填した魔力そのものでした。
魔力が逆流し始めます。
それらのエネルギーを制御するべく、必死に体を張るウーク。
魔力はウークの体外へと放出され、眩い光と熱を放ちながら飛び交います。

2つの世界を操作するほどの膨大な魔力が、彼の体を襲います。
最早何が起ころうとしているのか、光の外からも、中にいる者にさえ、判断する術はありませんでした。
熱はウークの体を熱く燃えあがらさんばかりに吹き荒れ、ウークの体を溶かし、輪郭も光と化し。

あまりにも辛い、しかし、これで挫けてなるものか!!
ウークの脳裏にミュラーとの思い出が鮮やかに蘇ります。
自分は一人ではない。その思いがウークを強くしてきました。ミュラーさんのために。
再び力を沸き上がらせ、
「Origin!!!」

一方でウークにこびりつき、心を縛って放そうとしない言葉がありました。エルファの・・・
・・・それがあなた方2人の幸せなんですか?
別れたくなんかありませんでした。それがミュラーさんのためになるということが、ただその思いを上回っていただけでした。


「なぜだ? なぜ次元震の影響が、このアースラまで伝わってこない?」
ミュラーは完全に動揺していました。
クヌースが、静かに言い放ちます。
「あなたは、どうやら自分の頭を過信しすぎたようですね。」
「分からない・・・」
「別れたチャオは決して戻ってこない。あなたが心の中で信じるウーク君は、本物のウーク君の代わりになるはずがない。
 もしも今回の件があなたの予想を超えていたとしたら、それが正常というものです。
 チャオはそれぞれかけがえのない存在です。だからこそ、面白いんですよ。」


ウークは前方に大きく放り出されました。
彼からはとうに五感は失われつつありました。自分を取り巻くあまりの熱と、光のために。
彼の両腕を固定していた鋼が熱のために溶解し、外れていました。

装置の陰から、ひっそりと顔を出すものがいます。
ベージュの色合いに頭から尾まで細長い体が、ひょろりとウークの側に現れました。
グレアムでした。
その口にくわえられた真っ赤な宝石のような石が、彼が何をしたのかを端的に物語っていました。
見上げれば、装置に埋め込まれていたデバイス、それを覆っていたガラスがいつの間にか破られています。

グレアムは、まだごうごうと光り輝くウークを恐れるかのように迂回しながら、エルファの元へと駆け寄ります。
「大丈夫ですか。」
答えはありません。


ウークは言葉にならないうめき声を上げ続けました。
自分が何者であるかすら分からなくなりそうでありましたが、彼を辛うじてつなぎ止めるのは、そう。
ミュラーのために。

おびただしい量の魔力が、彼の体内から外部へと放出されていきます。
気を失いそうになりながらも、彼は一心不乱にそれを制御しようと試みます。
ですが・・・それを実現するためには、彼は体力を消耗しすぎていました。

「・・・しくしょう」
彼の目から、涙がこぼれました。ウークにしてみればそれさえも、みだらに視界を汚す液体です。
わけの分からない光の粒だと、ウークは思いました。
「なんで・・・なんでなんだよ!!」

失敗の原因は、誰にも分かりませんでした。
グレアムが装置のデバイスを奪ったためなのか、エルファによる揺さぶりが、ウークの心理に何らかの影響を与えたのか、
あるいは、ミュラーによる装置の設計自体に問題があったのかもしれません。
ただ一つ言えるのは、この計画の負債を全て背負う結果になってしまったのが、他ならぬウークであるということだけでした。

ウークの体はもう、本来持っていたチャオとしての外形を失っていました。
彼の周りには雨垂れのように、ぽつぽつと光の粒が落ちていきます。
頭上には光輝く球が、暗い地下室の光源となって辺りを照らしています。
コバルトブルーの目には、涙と悔しさだけが浮かんでいました。



ふうりんが目を覚ましたのは、彼女がアースラの自室に運ばれてから、優に数時間は経った後でした。
グレアムがエルファの目の覚まさないのを確認し、倒された仲間の中でも比較的軽傷だった者を叩き起こしていたところ、
アースラの方から援軍がやってきたので、彼らとともに全員をアースラに担いで戻した。
・・・というのは、ふうりんが後に聞いた話です。

ウークも同様に運び込まれ、現在はミュラーとは別の部屋に軟禁されているとのことでした。
「そんな簡易な措置でいいんですか?」
驚いて聞き返すふうりんに、クヌースは言いました。
「彼、事後まるで通り過ぎてしまった台風のようにしゅんとなって、だからたぶん大丈夫だろうという結論に至ったんです。
 明日にでもエルファ、ミュラー両氏と併せて本部の方に送還するつもりです。」
「本部に送られた後は・・・」
「ミュラー氏ともども、裁判にかけられるでしょうね・・・未遂とはいえ、相当な重罪に当たるのではないでしょうか。」
「そうですか・・・」

残念そうな表情を見せるふうりんに、クヌースは独特の戸惑いを見せながら、にこやかに聞き返します。
「ところで、ふうりんさんはどうするおつもりですか?事件の顛末を見届けたからには、普段の生活に戻ってしまわれますか?」
聞かれて、ふうりんは渋々うなずき返しました。

このページについて
掲載号
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
ページ番号
38 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日