13-A

「いいものを見せてやろう。」
ウークはエルファに背を向けると、崩れた壁の方へと歩き出します。
エルファを恐れる様子は全くありません。彼の目は、一心に成功することを見つめています。
「こっちだ。」
言われるがままに、ついて行くエルファ。

崩れた壁をくぐり抜けると、そこに見えるのはたくさんの倒れた管理局のチャオたちです。
思わず目をふさぎたくなる光景。誰かの助けがあれば・・・
しかし、ここではウークを止めるのが何よりも先であると、エルファはその場をやり過ごすしかありません。

地下室を進むほどに、道順もよく分からなくなってきます。
地下室はよほど広く、複雑に作られていたのでしょう。エルファもまだ、全貌は見たことがありませんでした。
冷たい空気に枯淡の変化を敏感に感じ取るエルファ。

「ここだ。」
ウークが立ち止まったその背後に、巨大な装置がそびえていました。
装置の正面には、ガラスで守られたデバイスが、様々な色に輝きながら、露骨な姿で眠っています。
しばらく見ないと、それが部屋の一室であるということには気づけませんでした。
部屋いっぱいを覆うように装置は鎮座しているのですが、あまりにも大きいために、それがまるで壁に埋め込まれているかのように見えたのです。

ウークは装置の中央に設けられたくぼみに手をかけ、一気に体を上方へ持ち上げました。
そしてそのくぼみに腰掛けると、自慢げにエルファを見下ろします。
ウークの眼下で、ため息をつくエルファ。

「これを使って、デバイスにためられた魔力とあなたの魔力を結合するんですか・・・」
「オレはこれから、計画の全てを完了させる。せっかく手伝ってもらったんだ。これから始める所業、最後まで見届けてもらえないか?」
「確かに、言われてみれば適任かもしれませんけど?」

ウークは中央のくぼみへと、ごそごそ潜り込み始めました。
かすかな装置の起動音とともに、ウークの両腕ががっしりと天板に固定されます。
そう、それはデバイスからの魔力の供給を一身に集めるための、極めてシンプルな仕掛け。
ゆっくりと天板がスライドし、装置の全面にウークの体が磔られます。

様子を傍観していたエルファが、不意に言葉を発しました。
「・・・見ていられない。」
「どういう意味だ?」
固定されながらも、頭上に疑問符を示すウーク。

エルファは見上げます。
「本当にそんなもので、世界が変えられるとでも?
 世界はあなたがたが思っているほど、一瞬にして変えられるものではありません。
 そんな都合のいいことは、魔法でだって起こせるはずがないんです。
 私たちは今のことも考えます。未来は現在の延長なんです。今をないがしろにして、幸せな未来がやってくるはずないんです。
 そのためにみんな、少しずつこつこつと生きているんです。」

エルファの言葉に、ウークは不快な表情を示しました。
「・・・ここに来てまだ、そんなことを言われるとは。」
「当たり前です。」
「オレたちはただ、目の前にある壁を突き破っていくだけだ。一瞬には変えられない?そんなものは、勝手に定めた限界に過ぎない。」
「私には、あなたがこの計画をきちんと理解している風にはとても思えません。
 ミュラーさんと別れたいんですか? あるいは、氏は本当に、あなたと別れたいと思っているんですか?
 それがあなた方2人の幸せなんですか?」
「まだ言葉足りないかもしれないが、もうタイムリミットなんだ。」

ウークが言い終わるや否や、ブレーカーが落ちたような音が地下室に響き渡りました。
地下室を照らしていた照明が落ち、辺りは一転して暗闇に。装置が始動したのは音で分かります。
ブレーカー音に引き金を引かれたかのように、エルファの体が宙へ跳ね上がりました。
その手に隠し握られていたデバイスに光が宿り、手には弓矢が現れます。矢じりの向く先には、装置に取り付けられた不良デバイス。
しかし・・・

何かが砕けるような音がしました。

彼女の胸は、ウークによっていとも簡単に打ち抜かれていました。
エルファの体は、その場にばたりと投げ打たれます。目を覚ますことは、ありません。
「・・・最後には、常に勝者が歴史を作る。」
もはやウークの言葉を聞く者は、誰一人として残されていませんでした。


この世界のあらゆるチャオが、人間が、今目の前にいるそれぞれを失うことになると知る者は、まだそれほど多くありません。
人里離れた山奥の研究所、そしてどこか異空間を彷徨うアースラ、ウークとミュラーだけが、これから行われる巨大な魔法の全てを握っていました。

「いよいよだな。」
ミュラーがつぶやきました。


ウークは両腕から吸い取られていく自らの魔力が、徐々にデバイスに充填されていくのを感じます。
ウークは精神を集中させ、これからかけるあの大がかりな魔法をイメージします。
装置は幾多ものデバイスを統べながら、それ自身が一つのデバイスであるかのように、ウークの意志に追随します。
「The energy filled up.」

ウークは両腕に、できる限りの力を込め始めます。
限界、天井、今は微塵にも感じられません。ウークは自らの魔力が、最大限にまで高まっていることを感じます。
莫大な可能性と信念を心に秘め、ウークの口から放たれる言葉。
「Origin!!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
ページ番号
37 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日