12-C
ミュラーの目に映るもの、それがクヌースには、にわかに信じられません。
ミュラーは喋り続けます。
「ここにひとつのデータがある。私が構想を練り始めた頃から、私のチャオたちは、全てヒーローへと進化している。
そう、チャオ自身がその属性によって、自分たちだけの世界を持つことを正義だと証明しているのだ。
短期的に見れば、ばかげた話だと思うかもしれない。しかし歴史が経つ中で、これは、必ずよい決断となる。」
「何がよい決断だ!」
部屋の扉が突然開き、中から現れたのは、ダイクストラ。
「自分の一番愛しているチャオと別れて、何が楽しいんだ?さっぱり理解できない話だ。」
それだけ言うと、ダイクストラはクヌースの方へと向き直り、状況を伝えます。
「報告だ。エルファはウークを止めるために、アーバン・ミュラー研究所へと向かった。」
ウークは刹那のうちにふうりんに間合いを詰めると、その拳を振るいます。
「Protection!」
ゴキ吉の張ったバリアに、虎のように襲いかかるウークの拳。
バリアを激しく揺らすその衝撃が、ふうりんの手元にまで伝わってきます。じっと耐え抜くふうりん。
しかし・・・
ゴキ吉がころりと、ふうりんの杖から転げ落ちました。
赤い石はもう、光をたたえてはいませんでした。
「ゴキ吉!どうしたの!」
先程受けた電撃のダメージがまだ深刻に残っていた、それが事実でした。
しかしふうりんには、そこまで考えていられる余裕はありません。
ふうりんの耳に、ウークの言葉が響きます。
「一方通行の想い? そんなものが何になる。
俺たちの前で力比べをするのには、その程度じゃあまりにも弱すぎるんだよ。
どうせいつもくだらないことにくよくよ悩んだりさ、それで何かを思いついても、行動に移さないまま放っておいてきたんだろ。
家庭とか仕事とか、そんなものに追われていることを言い訳に、何もしようとしてこなかったんだろ。
それは決意だ。お前らに最も欠如しているものだ。オレは何かを実行する、そしてお前たちは日常を変えようとしない。それだけの差だ。
そして、一度決意した者は、とても強いということをみせてやる。」
「Revolving cutter!」
残されたデバイスでふうりんが反射的に出した刃も、ウークには既に見取られています。
「Thunder.」
ふうりんの後頭部にかけて、鈍い電撃が走り抜けます。崩れ落ちるふうりんの身体。
ウークはこの部屋に残った、2人のチャオたちに目を走らせます。
デバイスを構えるスモーチャオとヒーローハシリ。
「お前さんが強いというのはよーく分かったけどな、オレたちの生き方を否定したことだけは許せない。
そうだよ。オレたちの仕事はアースラの」
スモーチャオの台詞を、ウークは鼻で笑います。
「オレたちはこれをもって名を残そうと、2人そろって力を尽くしてきたんだ。
走り出したら止まらない。お前らには、絶対に勝てない。」
「私はウークを理解したと思っていたが、しかしそれを越えていくのがウークだ。
コロンゼロ、それは、コロンゼロそのものを破壊し、飛び越していくほどの魔力。
我々の想像力の限界を思い知らせてくれる。彼はもう、さっきまでの彼とは違う。
たとえ世界が立ち憚ろうと、魔法で未来の扉を拓く。もしも扉がなかったならば、あいつは、未来そのものをその手で作り上げるさ。」
ミュラーとウーク、2人の口元に笑みが浮かびました。
「Atmospheric quake!」
ウークが早口で唱えます。
いままで十分な集中を要した魔法がそのような手で出されたことに、スモーチャオとヒーローハシリには防御する間もありません。
いや、しかしこれも、ウークにとってはもはや
電流は、その場の全てを焼き尽くします。ただ一人、ウークを残して。
最後の大仕事は、ただ世界観移動を起こすことでした。
部屋を出ようかとしたウークの前に、見覚えのある大きな天使の翼が目に入ります。エルファです。
不審そうな目つきで睨むウークに対し、エルファは両腕を広げ、何も武器を持っていないことをアピールします。
ウークは、彼が自分自身の手でエルファからデバイスを受け取っていたことを思い出しました。
「何の用だ。」
「世界を2つのばらばらな種族のために、今から分割するんですか?」
「ミュラーさんから話を聞いたのか・・・」
エルファはウークに歩み寄りながら話します。
「ご覧の通り私には、あなたに歯向かうための一切の手段がありません。
今ここで再開しているのは、単に一つ、伺いたいことがあってきたんです。
あなたは本当にそれをやりたいと、心から思っているんですか?」
うなずくウーク。
「たとえそれが意味するのが、ミュラーさんとの離別だとしても?」
ウークはまた、すぐにうなずきました。
「たかが2つの世界に分かれてしまったぐらいで、オレたちが互いのことを忘れるなんて思うなよ。
いまでもそうだ。どこにいるかなんてことは、大した問題なんかじゃないさ。
それにこれによって一番変わるのは未来なんだ。現代が多少痛手を負おうとも、未来によって償われる。」
暗闇の中から手探りで何かを掴み出すかのように、ウークはゆっくりと、答えを言葉にしていきます。
「それが、ミュラー氏の言葉ですか?」
「・・・そうだ。」