12-B
「・・・馬鹿じゃないの? Break through.なんて呪文はないって、自分で言っておきながら・・・」
「But I was taken to the phrase, added to my incantation-list.」
「そんなことって・・・」
「Gokikichi has an ability to make magic of the real.」
ゴキ吉にもう一本の傷跡がまざまざと、まだ鮮やかに残っていました。
それは以前の傷跡と交差して、まるでXの字のように。
「Don't worry about me. It's time to end it.」
ゴキ吉の言葉で、ふうりんは我に返りました。
視線をウークへと移します。
ゴキ吉に何とか一撃を与えたものの、右肩をざっくりと切り裂かれたウークは、その傷跡を押さえながらがっくりとその場にうずくまっていました。
何色とも言えないような体液が、その拳の周りを汚します。
傷跡から手を離してしまったら最後、存在を取り留めることすらできないんじゃないかというような、そんな不安を感じたのは、ウークにとって初めてでした。
「終わった、か・・・?」
スモーチャオが、静かに口を開きます。
「まだだ、まだだ・・・」
ウークはうつむきいたまま、小さな声で言葉を作りました。
生傷を負ったその肩は小刻みに震えています。
「ウークは必ずやりとげる。逆に言えば、彼がいるからこそ、この計画は成り立つのだ。」
艦長のクヌースを前にしても、ミュラーの言葉には、一点の迷いも感じられません。
「・・・どうして、そう言い切れるのですか?」
クヌースの質問を、鼻で笑うミュラー。
「そんなこともわからないお前たちは、いずれ私たちに手を出したことを後悔するだろうよ。」
ウークは思い出していました。ミュラーと、同じ研究所のチャオたちと過ごしたあの日々を。
ウークたちは研究対象のはずでしたが、にもかかわらず対等の立場を貫くミュラーに、ウークたちは好感を抱いていたのです。
時折、ミュラーは思い詰めた表情を見せることがありました。
ミュラーがよくそんな顔をするときには、ウークは決まって言ったのです。
「ミュラーさんは、もっと自分の考えに自信を持っていいと思うよ。」
そうすると、ミュラーは確かに、その言葉にうなずくのでした。
「私は今でもその約束を守り続けている。だからこそ分かる。
自信を持つこと、それを私が実行することで、ウークも自信に誇りを持つようになる。それは私にさらなる勇気を与えてくれる。
私たちの意志は、まるで互いが互いに同調しているかのように一つなのだ。
ウークは決して私の期待を裏切らない。そして私も、ウークの期待を裏切らない。
私がウークによって自信を与えられたのと同様に、ウークが自分に自信を持てるように、私は包み隠さず全てを話さなければならない。
いや、これは強要ではなく私たち自身の意志であり、力にであるに違いない。」
チャオガーデンの中に、一人の男が現れました。
男はウークの仲間のチャオたちに声をかけると、研究所を離れて他所へ行ってみないかと勧めます。
それに興味を引かれ始める他のチャオたちが、ウークには不満でした。
「くそ、何でみんなミュラーさんのことを信じないんだ!」
ウークと仲のよかった友達の一人、彼がウークを説得しようと試みてきました。
「いつまでも研究所に暮らしていて、何になる? 大体ミュラーさんは、もうとっくに研究者を引退しているじゃないか。
閉じこもってちゃだめだろ。名残惜しいのは分かるが、そろそろ研究所を出てもいいんじゃないか?
俺たちはコロンゼロ、その力を試してみたいとは思わないのか?」
しかしウークは頑なに、その説得を拒み続けました。
次第に友達も研究所を離れていき、ウークの側には一人、ミュラーだけになります。
そんなとき、ミュラーが言ったのです。
「お前は、自分の力を信じていればいい。信じれば信じられた分だけ、それがお前の力となるのだ。
そして同様に、私たちは、私たちそれぞれの力を信じていればいい。困ったときは、お互い様だ。」
「ウークなら可能だ。これだけは私の命にかけても言える。
もしも今、ウークが苦況にいるのなら、私はできる限りでそれを救う。私とウークはどんな状況でも一つだ。
ウークと私、その2人がいれば、私たちを止めることなど不可能なのだ。」
ウークの表情が変化します。
「負けてたまるか、オレはミュラーさんのためには、どんな状況でも死なないと誓ったんだ!
オレたちは世界を制す。2人の力を、見くびるなよ。」
ウークの手が、ゆっくりと肩から外れます。それと同時に、きれいに治った肩がそこに現れます。
光の戻った鋭いまなざしを、ふうりんたちに向けるウーク。
「お前たちが魔法を現実にする力があるのなら、オレたちには、つながりを現実にする力がある。
かかってこい。」