11-C

「やった・・・?」
爆発の焼け跡から、灰色の煙が漏れてきました。
徐々に晴れる視界。崩れ落ちた壁。しかし、そこにヒーローチャオの姿はありません。
「しまった!妙に行動が遅いと思ったら、あいつ、壁の向こう側に逃げる準備をしていたのか。」
地団駄を踏むスモーチャオ。

ふうりんの隣で、ヒーローハシリのチャオが言いました。
「追いかけないと!」
その言葉に、ふうりんたちは互いにうなずきます。


「ミュラーとウークの関係は、私から見て異常とさえ言えんじゃないかというぐらいの愛情で結ばれていました。
 パートナーの妨害工作がどんなだったか、詳しくは聞きませんでしたが、
 それを超えても結束していたことで、2人の間には何か特別な関係が芽生えていたように思います。
 正直、その結束の堅さには私も心打たれてしまった節があります。」


「本来は弱い種であるはずの人間、いや、正確に言えば、魔力の発見されていない世界でしかその優位性を発見できない人間。
 いずれ人間は、チャオによって自然淘汰されていくだろう。
 いや、しかしここに、それよりももっといい解決策が存在する。
 そちらの世界で魔力の存在に気付かずに暮らしているチャオたち。
 彼らに魔法の存在を教えてやれば、彼らを我々の世界へ迎え入れる代わりに、我々はこの世界から立ち去るのだ。
 人間の世界とチャオの世界、美しく2つに分割することによって、バランスの取れた社会が実現するのだ。
 そのために、今日、ウークは大規模な世界間移動を起こす。」

「二世界のチャオと人間を全て完璧に交換する・・・? そんな・・・いくらなんでも無茶な・・・」
クヌースには、ミュラーの言うことが本当に可能とは、到底思えませんでした。
それはもちろん、艦長としての長年の経験から、世界間移動の限界を知っているからです。
「本当に不可能だと思うかね?」


崩れ落ちた壁の残骸の奥に隠されていたその部屋から、一匹のチャオの姿が浮かび上がります。
「何のために、お前たちは戦うんだ? もういっそ帰ったらどうなんだ?
 みんながオレのことを理解できないと言った。昔はチャオガーデンで一緒に暮らしていた、しかしここを去っていった、みんながだ。
 お前たちも、あいつらと同じ考えなんだろ? オレが何を考えているのか、さっぱり分からないと言うんだろ?
 オレはイレギュラーなのかもしれない。でも、それが悪ではないと教えてくれたのは、ミュラーさんだけだ。」


「私が来た時には、ウークしかいませんでした。だから、そのときパートナーは、既に研究所を離れていたんでしょう。
 奇しくも私は、パートナーとは真逆のことに協力していたことになりますね・・・
 パートナーは、1人しか残されていないなら、もうミュラーに計画を実行できるほどの魔力はないと考えたそうです。
 でも、それは誤算でした。チャオ1匹が供給できる魔力の限界、コロンゼロを超える手段が、たったひとつあったんです。」


「そう、デバイスの回収だ。デバイスに保存された魔力を利用すれば、一時的だがコロンゼロ以上の魔力を得ることができる。
 世界を超えた移動に必要なデバイスの量は私が計算した。既に期は熟した。
 私の全てを託したウークは、今、チャオ自身の手によって、理想的な世界を作り上げるのだ!!!」


「オレはこんなところで負けるわけにはいかない!くじけるわけにはいかない!
 ミュラーさんの願いをかなえることができるのは、オレしかいないのだから!!!」
ウークの周りの空気がまるで変わったかのようでした。
ウークの背中から、両腕から、ぴりぴりと電流が立ち上ります。

「さっきは、よくもやってくれたな。Thunderbolt.」
「Protection!」
スモーチャオは確実に防御した、はずでした。
が、ウークの攻撃の威力は、先程の何倍にもなっていました。防御も効かないほどに。
バリアごと強引に吹き飛ばされ、地べたを転がるスモーチャオ。

「Shooting!」
ふうりんが放った弾は、ウークが右手から出現させたバリアによってかき消されます。
そして次の瞬間には、ふうりんの目の前までウークが接近していたのです。
「Thunderbolt!」
「Reflection!」
ふうりんの目と鼻の先で、ウークの雷が激しく散り、龍が如く踊り狂います。
ゴキ吉による反射魔法でした。
「ありがとう。」
「Welcome.」
ウークは雷を避けるために著しく体勢を崩し、しかしそれでも間合いを保とうと、一度引き下がります。

すかさず、片手に持ったデバイスを向けるフェニン。
「Shooting!」
「Attracting.」
ウークはフェニンにとって予想外の行動に出ました。
片手に持ったフェニンのデバイスがするりと手を抜け、ウークへと引き寄せられます。
「あっ・・・」
「Thunder!」
デバイスに気をとられたフェニンを、ウークの容赦ない電撃が、その胸を貫きます。


もはやふうりんはいても立ってもいられませんでした。
レビン、カルデリ、そしてフェニン。
いくら御託を並べられたところで、彼の行動は理解できたものではありません。
「Are you ready, Whorin?」
ふうりんに届く、ゴキ吉の言葉。さすがゴキ吉、分かっているなと、ふうりんはゴキ吉に軽く笑みを送ります。
「もちろん!ルルカル☆マジカル!」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第318号
ページ番号
33 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日