11-A
    クヌースに指名された5人は、一列になって研究所の中を駆けていきます。
先頭の2人はそれぞれカルデリ、フェニンというチャオ、そして彼らの後ろをついていくのがふうりんとゴキ吉、グレアム。
道中の部屋などを見る限りでは、主だった争いの痕跡は見られません。
ふうりんはその手のストレージデバイスを握りしめます。
研究所は意外に広く、また落ち着いているように見えました。
壁も床も白いこの建物は、まさに研究所のイメージとぴったりです。
元はチャオ研究のための施設。教えられた道筋を辿る中で、たくさんのチャオガーデンをふうりんは目にしました。
しかしそのどれもが中は空。不気味なほどに人やチャオの気配がしません。
ふうりんたちは仲間が待っているのが地下1階であるということを聞いていました。
エレベータを発見し、地下へと向かって降りていきます。
ウークが待つ地下。
それまで白一色だった建物は、急にその様相を変化させてきました。
壁面は黒や緑、茶色、紫、元が何色だったか分からないぐらいに混沌としています。
気のせいか、ほほをかすめる空気の感触すら変わったように感じられます。
ふうりんたちの足の動きも、次第に慎重になります。
次の瞬間、ふうりんたちの左方向から轟いたすさまじい爆発音。
ふうりんたちの間を、緊張が駆け抜けました。
「行こう!」
駆け出す先頭のカルデリ。ふうりんたちも、慌てて音の方向を追いかけ始めます。
そして、たどり着く一室。
「これはひどい・・・」
部屋に管理局のチャオたちが円を描くように広がっています。
彼らが取り囲むのは真っ白な体のヒーローチャオ、ウークです。
全く無傷のウークに対し、管理局側には倒れてしまいそうなほど傷ついているチャオもいます。
「畜生、これだけ俺たちが束になってかかっているのに、なんてやつなんだ・・・」
「大丈夫ですか。」
「いいや、大丈夫じゃない。」
近くにいたレビンが、ふうりんの言葉に応えます。
「ガードが堅すぎる。何なんだあの魔法は・・・」
ウークは、辺りを睨み回しました。
部屋の中央に仁王立ちし、両手を左右に広げたウーク。その手にはデバイスすら握られていません。
「早いところ帰ったらどうなんだ!」
ウークが叫びます。
「ここから今すぐ立ち去るのか、このまま戦い続けて負けるのか、2つに1つだぞ。」
殺気だったウークの目。
その目に対し、管理局のチャオたちもおのおのデバイスを向け、揃えました。
ウークの両手から電撃がほとばしります。
「Thunderbolt!」
「Protection!」
レビンたちは電撃を防ぎ、それと同時に、一斉に攻撃をしかけ始めます。
「Shooting!」
ウークに対してあらゆる方向から、弾が放たれました。
しかしその弾は、目標の手前にして空中に静止します。
「Reflection.」
ウークの言葉と共に、四方八方へ撃ち返される弾の数々。
「Protection!」
「Reflect!」
一部の味方が取った反射魔法により、弾はあらぬ方向へと飛んでいきます。
その弾は壁へ天井へと衝突し、飛び散った粉灰が部屋の視界を一気に悪くします。
「今だ!」
粉灰に紛れて、レビンが飛び上がりました。
かぎ爪型のデバイスを振りかざし、ウークの上方からガードを崩そうとします。
が、しかし既に攻撃を見取っていたウーク。
ウークはレビンのかぎ爪を掴み、手元に引き寄せます。あらわになるウークの背中、羽、しっぽ。
ふうりんは杖を構え、その隙を突いた攻撃を狙います。
「Shoot・・・」
「Protection!」
そんなふうりんをゴキ吉のバリアが突然覆いました。
にやりと、一瞬ウークが笑ったかに見えました。
「Atmospheric quake!」
ウークがその呪文を唱えた瞬間、部屋全体が目もくらむほどの光に覆われました。
ふうりんに感じられるのは、バチバチと飛び交う激しい音のみ。
レビンのかぎ爪を媒質として生み出された雷が、空気中に流れ出し、部屋の中を駆けめぐったのです。
ふうりんはゴキ吉のバリアが表面から削られていくのに気付きます。
攻撃の効果は絶大でした。
気付いた時には、半数以上のチャオがその場にうずくまっていました。
彼らはそう、ふうりんのようにウークの隙を突こうとして、防御がおざなりであった者。
なんとか残った者は、ゴキ吉のようにウークの行動に気付き、防御に転じた者。
ウークが掴んでいたかぎ爪を手放します。
それに合わせて、レビンは力なく床へと倒れ込みました。
クヌースはアースラの一室、ミュラーが捕らえられているというその部屋に立ち寄りました。
部屋の中には、床に座った老人が一人。アーバン・ミュラー。
セーターを羽織り、至って普通の格好をしたミュラーは、どこにでもいる普通のおじいさんのようです。
しかし、ただ一つだけ、人一倍鋭い眼光だけが、これまで幾人ものチャオを見てきた研究者を想起させます。
「少しお話をお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
ミュラーの前に座布団を敷きながら聞くクヌース。
「ああ、構わないが・・・」
ミュラーの表情からは、わずかばかりの違和感が見て取れます。
「私からもひとつ頼みたいことがある。この天井がやたらに低いのは、どうにかならんのか?」
ミュラーはその頭に今にもぶつかりそうな、天井を指さして聞きました。
「すみません、チャオ基準な物で・・・」 

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