10-C
「まず、どうしてアースラにいらっしゃったんでしょうか?」
クヌースの最初の質問に、エルファは困った顔を返しました。
エルファが口を開きます。
「話すと長くなりますが、私にはもう、あちらにいる必要が無くなったからです。
それに今回の件が事件として取り上げられているようで・・・それについては、ご迷惑をおかけしました。
その精算の義務があると感じたのがひとつと、グレアムの希望というのがひとつ。」
「僕が言い出したんです。ゴキ吉やふうりんと合流しようと思ったので・・・」
グレアムがエルファの言葉を引き継ぎました。
グレアムは本人だと確認できたので、その言葉はとりあえず信用できるものと見てよさそうです。
紙に記された質問事項を、手で辿るクヌース。
「ええと、少し気になるところもあるんですが、次の質問を聞いてみましょうか。なぜ不良デバイスを集めていたんですか?」
「わかりません。」
「何か目的があって集めていたのではないんですか?」
「不良デバイスを集めることは、直接の目的ではありませんでした。私はただ、頼まれて集めていただけです。」
グレアムがぽんと手を打ちました。
「それがウークだったのか。」
「ウークって、あのヒーローノーマルのチャオのことですよね?」
ふうりんがゴキ吉の言葉を思い出しながら確認します。
「はい。」
答えるエルファ。
クヌースは眉をひそめます。
「結局そのウークの目的が分からないと、今回の件は解決しないんですね?」
「すみません。本当はグレアムにその辺りを調べてもらおうと思っていたんですが。」
「僕が見たのはウークがチャオガーデンで老人といた様子と、ウークが妙な装置を用意していたことだけです。」
「妙な機械?」
うなずくグレアム。
「未完成のようでした。あっ、ひょっとして、不良デバイスはその装置の部品なんじゃないですか?」
そう言われても、確信に至らない様子の様子のクヌース。
「Probably, he'd use them as energy sources to the mechanism.」
唐突にゴキ吉が口を挟みます。
「Devices have their own energy sources that have the largest capacities.」
「ああ、それは確かに考えられますね。」
ゴキ吉の意見に、クヌースは同意します。
「どういう意味ですか?」
「特にインテリジェントデバイスは、時に使用者の手を離れて魔法を行うために、内部に魔力を保存する機構が備わっているんです。
しかも不良デバイスなら、奪ったところで被害、事件性共に薄い、
もっとも、世界間移動を引き起こしてしまったのは、誤算だったんでしょうけどね。」
クヌースはもう一度例の紙を取り上げ、つらつらと質問項目を探します。
数秒後、クヌースは、その質問リストを使うことを諦めます。
「じゃあ、じゃあふうりんさん達の世界の住人であるあなたが、あの研究所へ行って、ウークの指示に従った理由は何ですか?」
「パートナーを探していたんです。」
今度の質問には、すぐに答えるエルファ。
「私のパートナーがどこかへ行ってしまったのは、昨年の9月頃だったと思います。
最初のうちは気楽に捉えていたんですが、なかなか出てこないので探しに行きました。
足跡はあの研究所で途絶えていました。そこで何かが理由があって、私のパートナーは帰れなくなっているんじゃないかと、
たまたま人手を欲していたウークに近づくことによって、その理由も掴めるのではないかと考えたんです。」
「それで、そのパートナーの名前は?」
エルファはパートナーの名前を答えます。
ふうりんの頭の中で、何かがひっかかりました。
「こちらで調査できるように手配しましょうか。」
「ありがとうございます・・・」
ふうりんはエルファとクヌースとの会話に割って入ります。
「クヌースさん、たしかケータイ持ってましたよね?」
クヌースに頼んで、携帯電話を出してもらうふうりん。
ふうりんは記憶を辿りながら、その携帯電話を操作し、エルファに手渡しました。
それを見たエルファの顔が、一瞬にして驚きの色に包まれます。
「こ、こ、これは・・・」
エルファが震える手で、その画面を指します。
携帯電話に表示されたウェブページが全てを物語っていました。
2007年4月2日 チャオゲー署名運動
「艦長!」
そのとき、室内に転がり込んでくる、一匹のチャオがいました。ふうりんの知らないチャオです。
「おや、なんですか?」
クヌースが聞くと、そのチャオは荒れた息を整えるように、おおきく息を吸い込んでから、言葉を出します。
「ミュラー研究所に派遣されたチームから、連絡がありました。」
クヌースが聞きます。
「一体、何と?」
「ミュラー氏を発見し、身柄を押さえることに成功したそうです。まもなくアースラに運ばれる見込みです。
また、例のヒーローチャオも発見できたのですが・・・どうやら苦戦しているようなので、援護をお願いしたいと。」
それを聞いてすぐさま、決断を下すクヌース。
「分かりました。じゃあふうりんさんたち、カルデリ、フェニンをそちらへ向かわせて下さい。ミュラー氏は、私が。
そこのエルファさんをダイクストラの元へ、署名運動本部へと連れて行かせてあげてください。」
「僕もその『ふうりんさんたち』に入っていますか?」
グレアムの質問。
「当たり前ですよぉ。」