10-B
翌朝。
ケイの様子を見にいったレビンは、そこで、死体のようになったケイを発見しました。
「だ、大丈夫か?」
レビンが駆け寄ると、ケイは目を擦りながら、おぼろげに返事します。
「・・・ああ、なんだ、レビンか・・・」
ケイのまぶたは、すでに半分ぐらいまで落ちています。
おそらく徹夜で転送先の特定を完了させたに違いありません。
「とりあえず敵の居場所は分かって・・・攻め込む作戦計画も作れた・・・」
よろよろとケイが差し出す計画書を受け取るレビン。
「お、おお。よくがんばった。でもそんなことより睡眠を」
「はい、じゃあ、皆に作戦の説明よろしく頼みますー。」
「まじかよ!とんだとばっちりだな!」
レビンは渡された計画書を元に、アースラの乗組員10名を一室に集めました。
この10名に、レビンも加えた11名で敵の本拠地に乗り込むというのが、ケイの作戦の概要でした。
「おはよう。ひょっとして、例の敵の居所が分かったとか?」
「ああ。」
集めたチャオからの挨拶に、答えるレビン。
どうやら昨夜の出来事は、全ての乗組員たちに行き届いているようです。
「じゃあ、これから作戦を説明する。」
レビンは部屋の壁際に立つと、咳払いをひとつして、手持ちのデバイスに軽く呪文を呟きます。
レビンの後ろの壁に、ケイの突き止めた場所の地図が映し出されました。
「アーバン・ミュラー研究所。」
「うっそおお!?」
集められた中の一人、茶色いエイリアンチャオが大声をあげました。
他のチャオたちの間にもざわめきが走ります。
「オレだって驚いたよ!」
両腕を広げて、大げさに驚きを表現するレビン。
「アーバン・ミュラー氏といえば、その道の間では結構有名人だもんな。まさかって感じだろ。
でも、ケイがそう言うんだから、そうなんじゃないの?にわかには信じられないとは思うが。」
先程大声をあげたチャオが、レビンに聞きます。
「でもミュラー氏は人間だろ?今回の件に、そんな名前が出るのはおかしくないか?」
「オレもそう思うよ。」
そう答えてから、ケイからの計画書をぱらぱらとめくるレビン。
「えっと、これによると・・・
所有者であるはずのミュラー氏は、『コロンゼロ』等の発見で有名なチャオ研究者ですが、
5、6年前にチャオ研究業を引退して以来、詳しい消息は不明です。
今回の事件に関係があるのかどうかも、よくわかっていません。」
「なんじゃいそりゃあ。」
あきれるエイリアンチャオ。
続いてレビンは、研究所の平面図とおぼしき図を、大写しにします。
「見ての通り、ミュラー研究所は1階、及び地下1階という構造で、かなり大がかりな施設になっている。
入り口は正面と入り口の2箇所しかないので、まずはそこを押さえて・・・まあ、単刀直入に言えば、大突入だ。」
ふうりんとゴキ吉は朝食後身支度を調え、クヌースの部屋を訪れました。
昨夜言われた面会の準備がもう終わっているだろうと踏んだからです。
ふうりんからの呼びかけに応じて、いそいそと部屋から出てくるクヌース。
「今日の予定はどんなですか?」
挨拶代わりに聞いたふうりんに、クヌースは逐一思い出しながら答えてくれます。
「とりあえず大部分のチャオは、ミュラー研究所に向かうことになっていますね。
ふうりんさんは、戦線に参加できた方がよかったかしら?私と例のチャオ、フェレットとの面会へ。
残ったチャオはアーバン・ミュラーやエルファ嬢に関する情報収集。
ダイクストラも、これですね。ちょっと前にエルファ嬢の資料が送られてきたので、読んでいたところです。」
「なるほど。」
「それじゃ、行きましょうか。」
クヌースとふうりんは、艦長室のすぐ近くの部屋へと、おもむろに入っていきました。
「ふうりん!それにゴキ吉!」
歓声を上げたのは、その部屋のフェレットです。
「どうやら、グレアムさんと見て間違いないようですね。」
ガラスのこちら側で、にっこりと微笑むクヌース。わざわざ座布団を持ってきて、座っています。
「はい。」
クヌースが隣に置くもう一つの座布団の上に、ふうりんはゴキ吉と一緒に、答えながら座りました。
座ってから、ふうりんはゴキ吉の後ろ、翼の映えるヒーローヒコウのチャオがいることに気が付きました。
「Nice to see you again!」
ゴキ吉の挨拶に、ぎこちなく笑みを返すのは、まず間違いなくエルファです。
特徴的なモードをいくつも見せてくれたあのデバイスは、今日のところは見あたりません。
クヌースが座布団の下から紙を取り出します。
「では、これからいくつかの質問をします。何もかも正直に答えて下さい。いいですか?」
その紙を、いぶかしげな目で見るふうりん。
「・・・その紙は、ひょっとしてダイクストラが用意した物ですか?」
「そうですよ!よく分かりましたね!」
クヌースとふうりんのやりとりを、不思議そうに見ているエルファとグレアムです。
エルファはクヌースの最初の言葉に、神妙にうなずき返しました。