10-A
「She is innocent. If anything, Wook! He is a regular rascal.」
「何があったの・・・?」
ふうりんが聞くと、ゴキ吉はなんとも心ならずといった風にした上で、今までの経緯を話し始めました。
ふうりんと別れたあの朝のこと。
グレアムとの合流、ウークの登場、そしてエルファに救われたことを、事細かにふうりんに伝えました。
そして、ゴキ吉はふうりんに言い出します。
この先ふうりんと一緒に動いていくつもりはないと。
これからは持ち主に束縛されることなく、自分自身に従って行動していくのだと。
ゴキ吉はエルファから離れた後、それを決意していたのです。
「Now that she needs some help in trouble, I'm going to propose it to Knuth.」
ふうりんは、何とも言い返せませんでした。
淡くも抱いていた期待は全て適わぬ物であると、ゴキ吉に告げられたも同然でした。
ゴキ吉の言葉には、はっきりとした決意が感じられました。
その決意の固さは、今のふうりんにはまず砕ける物ではないということも容易に想像できました。
「Bye, Whorin.」
ゴキ吉はそれだけ言い残すと、部屋を出て行こうとします。
視線を数時間前にもらったばかりのストレージデバイスへと逸らすふうりん。
「待って。」
ゴキ吉を、呼び止めました。
「ゴキ吉がそうしたいなら、好きなようにすればいい。でも、一つだけ、私の思うところを言わせて。」
ドアの前に静止したゴキ吉に、ふうりんはぽつりぽつりと言葉を始めます。
「エルファが無実だというのは良く分かった。実はさっきあった時に、うっすらとそんな印象を持っていたの。」
一度言葉を切るふうりん。
「一緒にいきましょう。」
そう言って、ふうりんはゴキ吉を見つめました。
ゴキ吉の返事が返るのには、長い沈黙を要しました。
「Thanks.」
2人はそろってクヌースの部屋へと向かいます。
クヌースの和室。ついてみるとクヌースだけではなく、なぜかダイクストラも一緒です。
「ああ、ふうりんさん。ちょうど呼びにいこうかと・・・ええと、何かご用ですか?」
畳の上に座ったクヌースが、ふうりんの方を見上げて聞いてきます。
「いえ、ちょっとゴキ吉の方から用事があってきたんですが・・・エルファさんの件で。」
それを聞いて、クヌースがダイクストラと目配せをかわし合います。
まるで何か、わけありとでも言いたげな雰囲気です。
前に出るゴキ吉。ゴキ吉が手短に先程の話を繰り返します。
それを聞いて、2人の表情はますます複雑になります。
ふうりんはそれを怪しく思いました。
「何かあったんですか?」
ふうりんが聞くと、クヌースは軽くうなずいて答えます。
「実は、先程中規模の次元震の発生が確認できたんです。
それと時を同じくして、アースラのデバイス倉庫の中で見つかったのが、ヒーローヒコウのチャオと小さなフェレット。
状況証拠から世界間移動と見られます。」
「Elpha? Graham?」
すぐに反応を示すゴキ吉。ふうりんの方はというと、予想しない展開に驚いて言葉もなく。
「・・・え、えっと、それは本当ですか?
なんだか、とんでもない出来事のように思えますが・・・」
クヌースは2人に答えます。
「エルファとグレアム。その可能性はかなり高いでしょうね。いえ、私たちだって驚きましたよ。
敵として認識していたそのヒーローチャオが、わざわざアースラまでやってくるなんて!!」
口を開くダイクストラ。
「今からでも、確認を取りに行こうかと思っていたところだ。
グレアム氏を見分けられるのは、今のところふうりんとゴキ吉の2人だけだから。」
「2人はどこにいるんですか?」
室内をきょろきょろ見回すふうりん。クヌースが説明します。
「デバイスを持っていないことを確認してから、ある部屋に隔離、保護してあります。
会いに行ってみますか?チャオの方はともかくとして、フェレットの方は普通に話ができそうな様子でしたよ。」
「チャオの方は話せない、というと?」
「She is innocent. Release her immediately.」
重なったふうりんとゴキ吉の言葉。
「グレアムの方はどうでもいいのかよ。」
「Uh-huh!」
「彼女の方はずいぶん体力を消耗している様子でしたので、すぐには難しいでしょうね・・・」
ダイクストラが、クヌースの言葉を引き継ぎます。
「少なくともアースラの中にいる間は、現在の状態をもって様子を見るしかないだろう。
いくらゴキ吉の証言があったとはいえ、容疑者であることには変わりないのだから。」
そう言ってダイクストラは、ふうりんとゴキ吉を交互に見ました。
「如何せん、今は本人確認すら取れていないんだ。ちょっと待ってもらえないか。」
「そうです。もう深夜も遅いですし、今日のところは寝ましょう!」
手合わせて提案するクヌースの笑顔。
言われてみれば、ふうりんもかなり眠たいことに気付きます。
「明日には面会できるように準備を整えておこう。まずは、それからだ。」
「それなら、仕方ありませんね・・・」
ダイクストラに押し切られる格好で、諦めるふうりんとゴキ吉。
「あ、そうそう。」
部屋を出て行く2人に、クヌースが思い出したように付け加えます。
「朝ご飯は、ふうりんさんの部屋を出て、まっすぐ左に行った突き当たりですからねー。」