09-C

「どうよ?」
「だからー、まだ出ないって。少なくとも今日中は無理。」
「もっと早くでないもんかな。」
「とにかく邪魔しないでいただける?」

先程からレビンがしきりに話しかけているのは、ケイ、という名のダークチャオ。
聞くところによると、ケイは魔法の状況証拠より移動先を特定するような処理など、得意中の得意だそうです。
処理、といわれても、ふうりんには今ひとつぴんと来ませんでしたけれど、
ケイは彼女自身のインテリジェントデバイスと共にかかりきりになって、その問題に取り組んでいました。


ふうりん達がアースラに帰還した時、ふうりんはクヌースに怒られるのではないかと危惧していました。
しかし、いざクヌースに報告に行ってみると、何のことはない。そのまま納得されてしまったので、ふうりんは少し拍子抜けしました。
その場でクヌースは言いました。
「こちらには大きな損害はなかったんだから、いいんじゃない?」
クヌースは続けて、ケイに敵の居所を探し当てるように命じました。

管理局側も今回の一件を受け、ヒーローヒコウチャオとヒーローノーマルチャオのペアを、敵として認知するを決めたようでした。
そのペアがこの対立を穏和に解決しようとする様子は、全く見て取れませんでしたし、
なにより2人とも、管理局の管轄にない不正な渡航者だということが明らかになったからでした。

「ところで、ふうりんはどうするつもりなんだ?」
「どういうことですか?」
ダイクストラの唐突な質問に、ふうりんは疑問符を返します。
「このまま行けば、明日の日中には敵の居所まで向かう準備ができるだろう。
 乗りかかった船としてついていってみるか、それともまた、元の生活に戻るのかだ。」
「・・・ついていってみます。」
ふうりんは少し考えてから、答えました。

「分かった。編集部にも、そういうふうに伝えておこう。
 ただ自分は明日、少なくとも午前中は、編集部に行ってみておこうかと思う。
 エルファ・クローディアについての資料が、どうしても気になる。
 あのチャオは本当にエルファ・クローディアとして見て、間違いないんだな。」
「さあ、それは・・・ゴキ吉の言ったことですし・・・」
ふうりんは口をつぐみ、傍らのゴキ吉を見やります。
何も言わないゴキ吉。ふうりんはずっと、ゴキ吉の表面についた傷を怪しく思っていました。
しかし、ゴキ吉とはあれ以来、まだ一言も言葉を交わしていないのも事実です。

時刻はもう、12時を回ろうとしていました。

ダイクストラとふうりんの会話に、クヌースも口を挟みます。
「今夜はもう遅いですし、アースラに泊まって行かれてはいかがでしょう?
 家への連絡なら、ここにほら、電話がありますから・・・」
「そちらの世界にも、電話ってあるんですね。」
若干驚きながら、クヌースの差し出す妙にごてごてした携帯電話を受け取るふうりん。
「いえ、それはこちらへ来て買った物なんですけど・・・」

ふうりんが自宅に電話をかけてみると、すぐに千晶へと繋がりました。
きっといつもの如くふうりんの帰宅を待っていたに違いないことを考えると、ふうりんはなんとも、申し訳なさが先に立ちます。
千晶へは簡単に、今夜は帰らないことと、明日は編集部にいないということだけを伝えました。




クヌースに空いた部屋を与えられたふうりんは、いざ、ゴキ吉と向かい合いました。
ゴキ吉はさっきから、何も言い出そうとしません。
どう言い出すか悩みながらも、口を切るふうりん。
「・・・ごめん。」
言われても、ゴキ吉は無言のままです。

ふうりんは懸命に言葉を探しながら、会話を続けようとしました。
「正直、私にはゴキ吉がなぜ2日も帰ってこなかったのか、その理由は本当のところ分からない。
 もしかして、事故か何かにあった?それとも私に気に障るようなことがあった?
 後者なら、私はそれを直したい。また気張らずに話し合えたらと、思っているんだけど・・・」

ふうりんが何を言おうと、ゴキ吉はひたすら沈黙を守りました。
その表情は、読めません。
ふうりんはだんだん、何をどうすればいいのか分からなくなってきました。

ゴキ吉がこの状況において何をしようとしているのか、ふうりんには、さっぱり理解が及びません。
もしゴキ吉にまたよりを戻そうという気があったら、このような態度を取るでしょうか。
「やっぱり、私が悪かったか・・・」
ふうりんは、何とも言えない辛い表情を浮かべました。
「さっきかっこよく登場したのは、おおむねエルファを守るためってとこなんでしょ。」

「Yes. So what?」
ゴキ吉は極めて何気ない調子で、ふうりんの言葉に相づちを打ちます。
目を丸くするふうりん。
「そういうことにはすぐ答えるんだ。」
口ではそう言いつつも、一歩前進、ふうりんの言葉にはそのこと対する喜びも、少し混ざっているように聞こえました。
そして、そこを切り口にして、ふうりんはたたみかけます。

「明日管理局がエルファとその仲間を捕らえるために、本格的に動き始めるってことは、聞いてたよね。
 このままだとまた彼女に危険が及ぶかもしれない。どうするつもり?」
「She is innocent. If anything, Wook! He is a regular rascal.」

このページについて
掲載号
週刊チャオ第315号
ページ番号
27 / 43
この作品について
タイトル
魔法チャオ女るるかるふうりん
作者
チャピル
初回掲載
週刊チャオ第302号
最終掲載
週刊チャオ第321号兼ライトカオス記念号
連載期間
約4ヵ月13日